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No.49  【 限りなく人に似ている 】




 常日頃から、はガンダムに乗りながらも自分はガンダムマイスターではないと公言して憚らない。
無論、別世界からトリップしてきたと公言して憚らない少女は、確かにヴェーダに選ばれたガンダムマイスターではないから、それは間違っていないだろう。
 だが、明らかに実戦慣れしているは、まだミッションをこなしたことが無いマイスター達には善くも悪くも刺激になっていた。
 特に、刹那の機体である近接戦闘特化型のエクシアとは装備が近いこともあったし、の前に乗っていた機体はアレルヤのキュリオスと同じMA可変型であったから、この二人には理屈やシュミレートを越えたいい訓練になったようだ。
 ただし、根本から装備が違うヴァーチェと、中・長距離支援型であるデュナメスに対しては、は肩を竦めただけに留めた。
何しろ戦闘行為以前に、重装備型で明らかにより重そうに見えるヴァーチェの総重量が、実際にはより一回り程も少ないことにショックを受けていたし、破滅的に長距離射撃が出来なかったから、狙撃は何時だってオートだった。
自分の目で狙っている内は命中率だって悪くないのに、照準を合わせる長距離狙撃になると途端に乱射になるに、ロックオンは呆れを通り越して感心したものだ。
 こちらの世界において、コーディネーターであるということが、どの程度一般人との差があるか、には分からなかったが、他のマイスターに比べて抜きん出ていることは明らかだった。
また、太陽炉がこちらの世界特有のものであるとしたら、の世界特有の物であろうフェイズシフト装甲は、通常の物理攻撃はもちろん、GN粒子による狙撃をも跳ね返していたから、は攻撃もさることながら、防御も強い。
 の機体破損率は極端に低かったし、最小限の行動で模擬戦を圧倒していた。
は自分の機体の総ての装備を曝した訳では無かったし、まるでやる気が無いと公言するようにマイスター達のガンダムに攻撃を当てることは無かった。


。僕たちは、マイスターに相応しくないのかな?」


 アレルヤは困ったように笑いながら問う。
水分を補給していたは、驚いたように「どうして?」と答えた。
寸止めや威嚇で模擬戦を圧倒している相手そう答えられて、アレルヤと同じくロックオンが苦笑を浮かべる。
平常心でいられなかったのは、ティエリアだった。


「では、。君は何故私達を攻撃をしない?あのような戦い方は、我々を馬鹿にしている。」


 攻撃するに値しないからではないのかと、ティエリアは言う。
それは、表現の差こそあれ、他のマイスター達にも思うところであった。
しかし、は暢気にもう一口ドリンクを口にしながら応える。


「だって、攻撃したら傷ついちゃうじゃない。」


 一瞬意味を掴みかねたマイスター達に向かって、は更に続ける。


「模擬戦で仲間の機体を破壊することの何処に意味が有るの?」


 ようは、模擬戦は相手を圧倒出来ればそれで終わりなのだと。
はやはりのほほんと続ける。
壊してしまえば、ガンダムにしろ的にしろ修理にコストが掛かるけど、壊さなければ掛からない。
掛からなければ、余計な出費は押さえられるし、不測の事態の時に出撃が間に合わなくなることもない。


「急がなくてもソレスタルビーイングが動き出せば、マイスターは嫌でも傷付くし、嫌でも気付くわ。別に、強いか弱いかとか、馬鹿にしてるわけじゃない。」


 ちゃんと考えているのだと、彼女は主張する。
自分は、必要な時には傷付け、破壊し、殺すことが出来るから。
必要無い時にわざわざすることはないのだと。
そして、「私はね」と。を見上げて呟く。


「機体はただの兵器じゃないと思うの。人と同じだと。」
「ガンダムが?」
「そう。手があって、足があって、顔があって。眼があって、鼻があって、口があって。」


 最初にガンダムを作った人は、どうして人の形を模したのかしら?と。
は自身の機体を見上げながら。


「不思議だよね。乗ってるのはコックピットなんだよ?機体の胸部分なのに、通信するときや、戦闘のときは、ちゃんとパイロットの意思を汲んでいるみたいに頭はそっちを見るんだよ?カメラがついてるからだとか、そんな次元はもう超えてるよね。」


 が、自分の機体に対して持っている感情は、もしかしたら家族に抱く感情に近いものがあるのかもしれないな、と。
ティエリアはその横顔を見ながら思った。
 の言わんとしていることは、マイスター達にも分からなくはない。
人間の反射速度や意思を明確に、的確に汲み取って機体が動くのだ。
操縦桿は両手の数、つまり、二つしかないのに。


「人間と人間が模擬戦をするとしたら、一撃目を与えるまでにどれくらいの情報を処理しているか知ってる?」


 は笑って問い掛けたが、別に答えを欲しているわけではなかった。
ガンダムがどのような処理システムを積んでいるのかも、何故パイロットの望んだ通りの動きを細かな部位にまで再現出来るのかも、答えられたところで理解出来るとは思えなかったから。
 パイロットはその原理を知らなくても、使用方法を知っていれば戦える。
戦えるなら、戦場へ送られる。
愛機と共に。
そしてそこでの結果が、軍人には総てなのだ。
 だけどは、自分の命を守り、手足として戦ってくれる相棒を、とてもそれだけでおさめることなんて出来なかったから。


「だから私は、MSはパイロットを一番良く理解してくれてる相棒だと思ってる。は私を理解しているから、エクシアやキュリオスを攻撃したくないの。刹那やアレルヤを守って、最期まで一緒に戦ってくれる相棒だから、怪我を増やしたくないの。MSにはね、ちゃんと意志があるのよ。」


 人じゃないけど、限りなく人に似ているから、と。
は愛おしむようにガラスに手を伸ばす。
ガラスの向こうには、ハンガーに納められたが、ひっそりとを見つめ返していた。
 だからは、刹那とはまた違った意味でガンダムに焦がれているのだと。
ロックオンは頼りない後ろ姿を眺めながら一口ドリンクを含んだ。






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2008/01/20
常々思っていたギモン(笑)。




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