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No.24  【 冬の朝の寝室 】




 横で眠っているはずの小さな体が動く気配がして、眼が覚めた。
視線だけでを見れば、眠るときは俺にぴったりくっついていたはずなのに、今はまるで反対側を向いて小さく丸まっている。
冬だから寒いのは当たり前だが、寒いなら俺にくっついていればいいのに。
 暫くその様子を伺っていたら、なにやらもぞもぞと手を動かしていて。
どうやら既に起きているらしい後姿を、若干睡魔が残る眼で観察していたら。


「ん…」


 ――俺のベッドで、俺の隣で、そんな声出すな。
それは、キスしたときに漏らすような声。
一気に眼が覚めたぞ、オイ。
誘ってるなら今すぐ乗ってやりたいところだが、そうもいかない。
だが、俺がこれほど耐えてるというのに、はまた。


「ん…んん……」
「――おい、。」


 頭に来たので、その小さな肩を掴んでごろりとこちらに向かせた。
俺が眠ってると思っていたらしいは、いきなり転がされてそりゃあもう驚いたように眼を見開いていて。
でも、声は上げない。


「さっきから聞いてりゃ、誘ってんのか?」


 そう聞けば、は頬を染めながら首を振る。
そして、一瞬だけ困ったような表情を浮かべて、細い指で自分の唇を指差した。
 俺からしてみれば、キスを強請ってるようにしか見えない動作だが、付き合って2年になろうかという時間を経ても、がそんな動作をするのは殆ど無いから。
とりあえずその唇を見れば、血の塊がの唇の上下を塞いでいて。


「お前、どうしたんだ?これ。」
「んん?」


 確かにこれじゃあ口は開けないし、口が開けないんだからあんな声しか出せないだろう。
痛々しそうなそれに触れて問いかければは困惑した様子で首をすくめた。


「ま、接着剤じゃあるまいし、溶かせば大丈夫だろう。」


 と、言ったところで、が妙に焦った表情をした。
多分それは、俺が同時に思いついたことを察したからだろうが。
身をよじって逃げ出そうとする体の上に覆いかぶさって、押しのけようとする手を枕に押し付ける。


「お前、勘がよくなったか?昔は俺がキスするまで全く気付かなかったよな?」


 そう思えば、少しは進歩したというべきなのか?
酷く反論したげな表情で、は俺を睨み上げてくる。
こんな状況でそんな顔したって、可愛いだけなのにということには、相変わらず気付いていない。
もう既に眼には涙が滲んでて、頬は赤く染まってて。
これで我慢しろって方が無理な話だ。


「溶かしてやるよ。」


 それだけ言って、顔を近づける。
は背けようとしたけど、いつまでも逃げ切れる体勢ではない。
すぐにその張り付いた唇にたどり着いて、ぺろりとひとつ舐め。
それだけで、は固く閉じていた眼を見開いた。


「何だ?キスされるかと思ったのか?溶かすだけだろ?」
「――――〜〜〜〜〜」


 にやりと笑えば、は更に顔を真っ赤にして。
呼吸が肌に触れそうな接近戦に耐え切れないのか、は子どもがそうするようにいやいやと首を振った。
俺は咽喉の奥での笑い声を止めることが出来なくて。
だからもうひと舐め。
 血の味がした。
当たり前か。
血が固まってるんだから。
それでもの唇は柔らかいし、密着した体は温かい。
キスのような、そうじゃないようなその戯れに、猫にでもなったような気分になる。
 何度もその柔らかい稜線を行き来して、少し離れる。
呼吸が辛くなってきたから。
そして少しは緩くなった唇に親指を触れる。


「そろそろ大丈夫だろ。中から舌で押してみろよ。」


 今にも泣き出しそうなほど真っ赤になって、は恐る恐るといった態で内側から唇を押す。
ぷつりと小さな音がして、俺が触れた親指に、の舌が触れた。
ぺろっと、俺の指を舐めたのは、不可抗力かも知れないが。


「あ、開いた。」


まるで俺の指なんか気にして無い様子で、がほっとしたように溜息をつくと、それが妙に熱っぽく聞こえて、誤魔化すように「よかったな」と答えれば、はにかむように笑って「うん」と一言。
 やべぇ。
今更のように俺のほうが我慢がきかなくなって。
ほっとしているの唇に、今度は触れるだけの短いキスを一つ。


「――ん、先輩。恥ずかしい。」


 溜息のような声で呼ばれて、真っ赤な顔の耳元で答えてやった。
この体勢で、不思議そうな表情をしなくなっただけ、やっぱり進歩なのかも知れない。けど。


、待ってやれるのは、お前が卒業するまでだからな。」






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2009/12/10 



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