「・。君は異分子だ。僕としては、即刻このプトレマイオスから出ていって貰いたい。」 「おい、ティエリア…」 ブリーフィングルームで、拾った少女の今後の動向について話そうとしていると、真っ先に口を開いたのは遠慮も配慮もへったくれも無いティエリアだった。 あんまりな言いように、諌める様に口を挟めば、やつはそれがどうしたとばかりに俺を睨んでくる。 流石に傷付いているんじゃないかと、全く未知の世界に放り込まれた自称異世界から飛ばされて来た少女・を見たが、だが、彼女は俺のハロを膝に乗せて、自分のハロを頭の上に乗せて、きょとんとティエリアを見ていた。 その表情は、ティエリアの言葉に傷付いているというよりも、何か珍しい物を見つけて魅入ってしまった子供のようで。 「・。聞いているのか?」 ティエリアがを睨む。 だけど、その視線は合っている訳ではないようで。 ティエリアの声に、はっとしたように現実に帰って来たらしいは、ふと立ち上がるとそのまま軽く床を蹴ってティエリアの方へ流れていく。 弾みで二つのハロが放り出されたが、は全く気付いていない様だった。 「ティエリア」 「――何だ?」 小さく名前を呼び、はそのままティエリアの顔に触れる。 キスが出来そうな距離とか、そのまま押し倒すつもりかとか、それくらい近い距離まで踏み込まれて、ティエリアが珍しくうろたえたのが分かった。 「眼、色が変わった。凄く綺麗。虹みたい。」 「………君は話を聞いているのか?・。」 ティエリアの顔を包み込むように両手で触れたは、まず間違いなく話など聞いていないだろう、と、思う。 というか、あのティエリアにそういう行動をするあたりが凄いよな。 まあ、はティエリアがどんなやつか知らないから出来るんだろうけど。 無重力のせいで半分浮いているを、ティエリアは自分に触れた手を掴んで離そうとした。 だが、もティエリアの顔を掴んだまま離そうとしない。 周囲の人間がの行動に呆気に取られて固まっている中で、ぎぎぎぎぎ、と。 効果音が聞こえてきそうな程の静かな攻防が始まる。 「ティエリア、もうちょっと。あとちょっとだけ見せて。綺麗なんだから。出し惜しみしないでよ。」 俺からすれば、きらっきらしながらティエリアを覗き込んでるお前の眼の方が、よっぽど虹みたいだと思うけどな。 だけど、そもそもティエリアがこんな状態を甘んじて受けるわけも無い。 「君は、今の自分の立場を弁えているのか?」 「え、捕虜じゃないの?」 額に青筋前回のティエリアの言葉に、はさらりと答える。 その単語に、ミス・スメラギが僅かに緊張したのが、俺にも伝わった。 俺はというと、分かってないようで分かってたのか? という苦笑が漏れたが、意外に感じたのはティエリアも同じだったらしい。 静かな攻防が一瞬止まり、無重力で浮いているをティエリアが見上げる。 それを、何か思ったらしいは、呆れたように応えた。 「私だって、軍人だもん。自分が所属してる軍じゃないところで、自由気ままに好き勝手できるなんて、思ってないよ?」 捕虜の心得もばっちり!と、いいながらも、相変わらず物珍しそうにティエリアの眼を覗き込んでいる姿は、まるで説得力が無い。 「ならば、即刻僕から離れて捕虜の心得とやらを実行に移したらどうだ?」 ついには短い導火線が費えたらしいティエリアの雷が落ちる。 べりっと音がしそうなほどの勢いでを剥がしたティエリアは、「不愉快だ」という一言を残してブリーフィングルームから出ていってしまった。 無重力の中をティエリアが振り払った勢いそのままに俺の方に漂って来たを抱き留める。 「残念。虹みたいで、凄く綺麗だったのに。」 「――は、ティエリアが怖くないのか?」 本当に残念がっているようだったので、面白半分に聞いてみた。 そうしたらは、「なんで?」と逆に問い返して来る。 大物だな、お前。 「ねえ、ロックオン。」 「何だ?」 「ティエリアは凄く綺麗な眼になったりしたけど、もしかしたらマイスターはみんなあんな風に眼の色が変わるの?」 の期待に満ちた眼が向けられる。 ちょっとまってくれ。そんなにきらきらした眼で見られても、お兄さんの眼の色は変わらないんだよ。 「残念だが、あれはティエリアの特権だ。」 「なんだ、残念。」 仕方が無いから白状すれば、は酷く残念そうに呟いた。 「また見せてくれるかな?」 「あー、お願いすれば、見せてくれるかもな。」 ティエリアは絶対拒否すると思うけど。 そうは言えなかった。 だってよ、こんな純粋にきらきらした眼を向けられて、否定出来ると思う? 俺は無理。 後日、に追い掛け回されたあげくに根負けしてるティエリアを見たから、きっとあいつも俺と同じ属性に違いないと思った。 |
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