「黒じゃない奴にして下さい。あと、出来るだけ裾は長くしておいて頂けると嬉しいです。」 団服はどんなデザインのものがいい?と、そう聞かれて、はそれだけを即答しておいた。 他に希望はときかれても、「別に何でもいいです」と、何だかやる気がないような返答を返すばかりで。 せっかく年頃の少女が入団したというのに、それではつまらないと室長のコムイはぼやいたが、はにっこりと笑いながらも折れなかった。 それが、つい先日のこと。 が教団本部に身をおくことになってから、そろそろ一週間がたち、朝っぱらからから呼び出されたと思ったら、昨日の今日で真新しい団服が渡された。 長い歴史を誇る黒の教団において、今までに無く異質な団員となっていた彼女も、これを機にようやく身の置き場が見えてきたというところか。 「どうして黒が嫌なの?」 「せっかくだから、着てみてよ」と駄々をこねたコムイをなだめて、結局渡された団服を抱えるだけ抱えたを、リナリーは半ば科学班室から拉致するように連れ出して、ホットパンツから伸びる白い足を軽快に動かしながら問いかける。 問われたは苦笑を浮かべながらわざとらしく首をかしげて、同じようにリナリーに問い返してきた。 「それよりも、どうして私に団服が支給されるのかな?」 その後に、私はエクソシストじゃなくて、ただのサポーターなのに、と続くのも、最早口癖となった台詞だ。 私は、多少普通より戦力になるだけで、ただのサポーターなのにな、と。 だから、団服は必要ない、と。は言う。 教団の習いとしてエクソシストが団服を着るのなら、自分はそれに習ってサポーターの服を支給してもらうべきではないのかと。 「他のサポーターに人に対して、示しが付かなくなるんじゃない?特に、こんな小娘が団服を着ちゃうなんて。」 「なに?小娘って。」 まじめ腐ってが言えば、リナリーは声を立てて笑う。 教団に長く在籍するものなどの中には、エクソシストというものは一種神聖なものであり、そう認められることは栄誉であると思っている者もいるため、の思考回路は奇異に映るのだが、そのあたりの事情に本人は気付く気配がない。 リナリーはそういった声に対して、肯定も否定もしなかった。 彼女には、彼女なりの判断基準があったから。 「『戦える』ということは、『認められた』ということなのよ。そして、此処では団服がその証なの。」 「そんなもの?」 「そんなものよ。だけど、その分背負うものも比例して大きくなるわ。」 だから、深くは考えなくていいの、と。 リナリーは一つ年上の自称新人サポーターに言い聞かせる。 大所帯になれば、様々な考え方を持つものが出てくし、中にはイノセンスに適合してエクソシストになることを、神聖視どころかエリート街道を走るようなものだと勘違いしている人間も居る。 そうなれば、歳若くして認められてエクソシストたちを妬むものも増えてくる。 そして彼等は「選ばれた」ことを妬みこそすれ、「選ぶ」ことを赦されなかったエクソシストの立場を考えることなどしない。 「好きでイノセンスの適合者になったわけでもないのにね。」 「あら、私は好きでイノセンスの適応者になったのよ?」 最後に、酷く冷たい声でポツリと呟やいた言葉が、床を蹴るヒールの音と重なる。 のほうも、リナリーに倣うように少しだけ笑ったが、それ以上深く追求する気はないようだった。 まぁ、団服一つでそんなに意固地になって否定するものでもないし、くれるというのなら貰っておくのが礼儀というものだ。 認められたのなら、それを行動で示せばいいだけの話である。 は抱えた白い団服を一瞥すると、僅かに姿勢を正した。 今日から自分はエクソシストなのだと言い聞かせて。 |
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