テニスコートは、ある意味で聖域だ。 別にそれは、僕たちがテニス馬鹿だとか、そういう意味から来るわけではなくて。 「「「「「きゃー!!跡部様!!」」」」」 黄色い声は今日も耳に痛い。 でも、声はコートに入ってきても、彼女達はコートの中には絶対に入って来れない。 声だけでも充分すぎるほどうんざりだけど、それでもテニスコートは守られてるから。 聖域だ聖域。 じゃなければ、暗黙の立ち入り禁止テープが張ってあるに違いない。 まるで犯罪現場も同じ。 「いい加減にせぇへんかな。」 「――忍足、言ってることとやってることが違う。」 ひらひらと無造作に手を振っている忍足を一瞥して、暑苦しい髪を掻き揚げれば。 「きゃぁぁぁぁぁ!!滝君!!滝君!!!!」 「おお、お前こそ煽っとるやん。」 「――不可抗力だよ。」 結局、何をやってもうるさいのだ。 無視するにもそろそろ限界。 ふつふつとした感情を、思いっきりボールに込めたら、うっかり岳人に当ててしまった。 岳人を心配するファンからまた悲鳴が上がり。 僕の横では長太郎が苦笑を浮かべている。 うん、ごめん。 ノーコンは君の専売特許だった。 そんなこんなで、暑さも加わって、気分は急降下していく。 そんなコトをしているうちに、跡部が召集をかけて来た。 なんだよ、今練習中じゃないか。 だけど、ふと見れば、横には榊監督の姿があって、しかも監督は見たことも無い女の子と手を繋いだままテニスコートに入ってきたのだ。 そして、テニスコートの外からは、何かもう色々切り裂くような女の子の悲鳴。 監督が来たなら仕方がないと、練習の手を止めて跡部と監督の方へ向かう。 「誰、あの子」と、フェンスに齧り付く女生徒と同類になるのは非常に気分が悪いけど、でも僕達もその姿を良く思えない。 何しろ、テニスコートは僕達にとって侵されてはいけない聖域だから。 なのに、その子は、あまりにもあっさりと立ち入り禁止テープを切断して、入ってきてしまった。 「これは、。明日から氷帝学園中等部に編入するが、それに先駆けて、今日から男子テニス部のマネージャーをしてもらうことになった。」 「え、太郎ちゃん。そんなの私聴いてないよ?」 本人は全く持って何が起きてるのか分かってない様子なのに、と紹介された彼女は、何かの式典のテープカットの如き切れ味を持って、立ち入り禁止テープを切断して僕達の聖域へと突き出されたのだ。 |
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