ロックオンがプトレマイオスの談話室に入ると、そこではがハロを抱えて無気力に部屋の中を漂っていた。 まあ、無重力なのだから、無気力もなにもないのだが。 どうやらロックオンの相棒がお気に入りらしいは、今日も今日とて自分の相棒をそっちのけで、オレンジの彼を抱きしめていて、眠っているようにも見える。 だから彼女のパステルカラーの相棒は、ぱたぱたと浮遊しながらなんやかやと自分の存在を主張しているのだが、はどうやら聞こえていないらしい。 ロックオンの存在に気付いたのも、よりの方が先だった。 『ロックオン、ロックオン。ハロハロ。』 「おお。騒ぐな騒ぐな。お前さんの相棒は寝てんだろ?」 『シラン、シラン。シラーン!』 どうやらご立腹らしハロに、ロックオンは思わず破顔した。 それにしても、はいつの間に自分のハロにマイスターやクルー達の名前を登録したのだろうか。 この前整備室で他のハロに混ざってのハロが『オヤッサン、オヤッサン!』と叫んでいたときには、流石に驚いた。 それともハロには学習機能でも着いているのだろうか、と。 ロックオンが漂ってきたを片手で捕まえた瞬間、どん、と、ささやかな衝撃を覚えた。 振り返れば、が腰にへばり付いている。 「起こしちまったか?」 「ううん。起きてた。ぼーっとしてただけ。」 確かに応えた声ははっきりしていて、睡魔の類は感じられない。 だが、ただでさえロックオンとは身長差が激しいは顔を伏せていたので、彼にはの様子を伺うことは出来なかった。 だからロックオンは、代わりにぽんぽんと彼女の頭を撫でる。 「どうした。ホームシックか?」 「ホームシック、なのかな?なんでもないんだけど、なんか…。」 「なんか?」 同じ言葉を繰り返して問えば、はそれを忌避するかのようにもう一度曖昧に笑う。 それは、触れられたくないからなのか、自分自身分かっていないような、困惑したような表情で。 「最初はね、おやっさんに抱き着いたの。そしたら『若いの同士でやれ』って言われて放り出されちゃった。」 「おやっさんは、若い娘に抱き着かれて照れてんだけだろ?」 恐らくは意図的に逸らされた話題に、乗っかってやれば、はまた少し、困惑したようなそれとはまた違った笑みをロックオンに向けて、続けた。 その後振り向いたらラッセが居たから同じ様に抱き着いてやろうかと思えば、思いっきり視線逸らされたこと。 その隣に居たリヒティは満面の笑みで両手広げてを待ってたから、なんか抵抗があったこと。 気を取り直してスメラギとクリスティナとフェルトに抱き着きに行ったら豊満過ぎる胸で窒息死しそうになったこと。 「だから誰が一番良いかなって思って、片っ端から抱き着いてみたの。」 の武勇伝はまだまだ続くらしい。 出会い頭に刹那に抱き着けば『俺に触れるな』って言われるし、近くがティエリアの部屋だったからわざわざ抱き着きに行けば『万死に値する』って言われるし、此処に来る途中でアレルヤに会ったからアレルヤに抱き着いたら、気の毒なくらいうろたえられたあげくにハレルヤになっちゃって逆に離して貰えなくなっちゃった、と。 「だからね、今度はロックオンの番。」 次第にその笑みを苦笑に変えたは、自らの戦歴を高らかに告げる。 どうやら敗戦続きのようだが、別に悪意がある訳ではないようなので、今度はロックオンの反応を見ているらしい。 対してロックオンは、半ば呆れたような苦笑を浮かべて返した。 「――すでに俺はラストなわけね。」 「出会った人から抱き着いてみたからね。でもロックオンが一番いいな。」 「おお、嬉しい事言ってくれちゃって。おにーさん喜んじゃうぜ?」 別に、ロックオンはを拒む理由も無いし、かつては妹も居たから、純粋に懐いてくるが可愛くて頭を撫でただけなのだが、どうやら撫でられた方には、その動作に特別な意味があったようだ。 「前にいたとこでも、そういいながら頭撫でてくれる人がいたの。」 思わず零れた言葉には、どれ程の焦燥が込められていたことか。 だけど、はまるで気付いていないように笑っていたから、ロックオンもわざわざ傷に塩を擦り込むような真似はしなかった。 少し反応が遅れてしまったのは、無理も無かったけれど。 「――だから、抱き着いてるのか?」 と聞けば、は首をふるふると振って否定する。 抱き着いて、頭を撫でてくれる人はいたけど、そう度々甘えていられる情勢でもなかったらしい。 「ここでは誰も私を知らないから。隠す必要も取り繕う必要も何も無いのかなって思ったら、誰かに抱き着きたくなったの。ううん、抱き締めて欲しくなったの。」 気付いていないようで、この少女は全部お見通しらしい。 だけど、分かっていそう言うのなら、と。 ロックオンは無言で微笑んでを抱きしめてやった。 |
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