俺たちはもう引退するが、今年一年生のは当然のことながら部活には残る。 鳳や日吉なんかの面倒を、もう一年見るのだろう。 俺たちはごく短い時間しか居られなかったのに、当たり前のようにと時間を共有する人間がいることが、酷く癇に障った。 だから。 「もう、何もしなくて良い。」 と、そう言った。 そうしたらコイツは、一瞬目を見開いてから、あからさまに大きな溜息をついて答えてくる。 「今度は何ですか、跡部先輩。」 その言いようが、気に食わない。 こんなガキに振り回されている自分が許せない。 それでも、突き放せないこの感情が、腹立たしい。 俺の不機嫌の理由にまるで気付いていないは、大きなドリンクボトルを差し出して、あっさりと俺に背を向ける。 その足が向いているのは、当然ながらテニスコートだ。 不機嫌が最高潮に達して、俺は手渡されたばかりのドリンクボトルを放り投げての腕を掴んだ。 「おきゃっ!」 間抜けな悲鳴と共に、籠に入れたドリンクボトルがごろごろとその辺に散らばっていく。 弾みで倒れてきたミニサイズの身体は、俺がしっかり受け止めてやった。 「あーもー、先輩何するんですか?仕事増やさないで下さい。」 「あーん?お前は何もしなくていいんだよ。」 「まだそんなコト言ってるんですか?駄目ですよ、私、マネージャーなんですから。仕事しなきゃ。」 呆れたような口調がムカつく。 何も分かってない表情がムカつく。 それが全部、『惚れた弱み』ってのが、一番ムカつく。 「、もう何もすんな。部活にも行かなくていい。お前は、俺の傍にだけ居ればいいんだ。」 に遠まわしな言い方は通用しない。 それは、短いこの期間で身に染みて分かっていたから、だから俺は、まっすぐを見て言った。 全く、天下のこの俺が、みたいなのに引っかかるなんて、予想もしなかった展開に思わず笑いそうになったが、それも全部抑えて。 なのにコイツは。 は酷く微妙な表情で首を少しだけ傾げる。 その姿が、凶悪なまでに愛らしいと思ったのは、やっぱり『惚れた弱み』というものの成せる技なのか。 「それって、どういうことですか?」 もう言葉でも通じねぇなら、と。 俺はその唇に噛み付いてやった。 |
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