特別な関係に進展したからといって、キルヒアイスとの関係は特別に変化したわけでは無かった。 思えば、こうして思いを通わせる前から無意味に触れ合ったりしていたし、そもそも一緒にいる時間が長かったから。 しかし、それでも、掛け違えたボタンを直して、互いがあるべき場所に収まってしまうと、それはまたそれ以前とは違った味わいであって。 しかし、キルヒアイスは思わずそれをかみ締めていたが、はかみ締める前にどうやら思うところがあったらしい。 「ジーク。私、『末永くよろしくお願いします』なんて言わないから、『今、このとき』だけは私のものでいてね。」 キルヒアイスとしては、どうせなら『末永くよろしくお願いします』で止めておいてもらいたかっただろう。 せっかく想いが通じ合ったと思ったのは、自分の錯覚だったのだろうかと、思わず地面に沈み込みたい気分になった。 おそらくは、キルヒアイスためにと想って言っているのだろうから、余計にたちが悪い。 「どうしてそう言うんだい?僕はもう、全部のものだよ。も僕のものだろう?」 違うのかい?と続ければ、はわずかに頬を染めて、違わないと思うけど…と、答える。 だからキルヒアイスもにっこりと笑みを浮かべる。 もうこの腕を宿り木に定めたを、離すつもりは毛頭無いから。 それに答えるように、も言葉とは裏腹な動作で自分を抱きしめる腕に甘えるように擦り寄る。 「だって、人間の一生って、とてもとても永いでしょう?先はまだ長いのに、これから先もずっと私一人のことを想えだなんて、酷じゃないかしら?そんな贅沢、誰にも要求できないわ。」 「それじゃあ、この先ずっと僕のことを想い続けて欲しい、と言うのも、君には酷な願いなのかな?。」 「そんなことは無いわ。私はずっと、ジークが好き。好きでありたいと思うし、好きでいたいと思うの。」 でも…、と。 彼女は言葉を濁す。 何か言いたそうでいて、それを言葉に出来ないのか。 それともそれを言葉にしたくないのか。 首を傾げる仕草は、とても心細い。 結局、それに続く言葉を見つけ出すことが出来なかったは、「だから、先のことはいいから。『今』だけは自分を想って欲しい」と、懇願する。 その『今』がずっと続くなら、そんな嬉しいことは無いのだと。 そうなれば、未来もを約束することに繋がるから、と。 そういう答えに至ったの思考回路は、一種独特なものだ。 今すぐに彼女の未来までもを独占したいキルヒアイスにとっては、些か理解しがたいことであるが、理に適っていない訳でも無い。 ここは、どう答えるべきなのだろう、と。 キルヒアイスは短く思案した。 キルヒアイス自身は、の『今』も『これから先のとても永い時間』も、手放すつもりは無かった。 が『未来』を委ねてくれなくても、彼女の言う『今』を愛しぬく自信があった。 ならば、どう答えても同じはずである。 それでが納得してくれるかは、また別問題だけれども。 それにしても、と。 キルヒアイスの思考はを腕に抱いたまま、更に飛び続ける。 彼女が危惧するように、死ぬまでの永い時間の中で、こんなにも愛しい存在に対する熱が、いつか冷めることなどがあるのだろうかと。 「――ジーク。」 だけどそれは、いつまでも思案にふけて答えないキルヒアイスを訝しんだの声によって遮られてしまった。 「何を考えていたの?」 「君を想うこの熱が、いつか冷めることなどあるのだろうかと、思っていたよ。。」 答えてやれば、は自ら振った話題だと言うのに、酷く傷ついた表情で顔を歪めてしまったから。 キルヒアイスは彼女を抱きしめる腕によりいっそう力を込めて、一つ首筋にキスを落としてから、の耳元で囁いた。 「だけど、そんな日が来るなんて、想像も出来ない。」 |
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