ぐっと、握ったの細い腕に力がこもる。 ラケットを放り出して、開いた片手で小さな頭を捕らえた。 反射的に押し返そうと俺の胸に手を着いたが、結局はそれほど力も入れられないうちに、は崩れそうになった。 それを支えて、充分堪能してから唇を離せば、はぁっと、酸素を貪るかすかな呼吸が聞こえた。 は茫然として俺を見ている。 驚きすぎて、濡れた唇を拭うことも忘れているし、顔が赤く染まっていることも気付いていないだろう。 にはまだ早かったかと思う反面、してやったりという気分が抜けない。 「これなら意味が通じるか?。」 「――……。」 「惚けてるのかよ。そんなに良かったか?」 「――なんて言ってやろうかと考えてただけです。」 ようやく思い出したように、は唇を押さえながら悪態をついてきた。 あーん? 往生際が悪ぃな。 だが、言葉とは裏腹に、これもまた、思い出したようにの頬も更に染まっていく。 音を立てない方が不思議なくらいの勢いだった。 「で、何て言うつもりだ?」 「えっと…。息、できなくて、苦しかったです。なか、べろべろしてたし、くび、痛いし、くちびる、ぴりぴりするし、かまれたし。怒ればいいのか、泣けばいいのか、わかんない…」 たべられるかとおもった、と続けて。 ふにゃっとの表情が崩れて、大きな眼から水滴が溢れる。 それを拭おうと、一歩距離をつめれば、反射的にも一歩下がる。 だが、その腕はまだ掴んだままだから、が俺から逃げる方法は無い。 「俺が、怖いか?」 「そんなの、知りません!でも、何か、なみだ、止まらないし。なんで?なんで、なみだ出るの?」 ひくっと、細い首が上下して、噛み付きたい衝動に駆られた。 それでも、は眼を逸らしたら負けだとでも思っているのか、涙を拭いながらも真っ赤な顔で俺を見据えてくる。 こいつ、分かってねぇ。 絶対分かってねぇ。 「でもお前、抵抗しなかったな。」 「――したもん。」 「あれが本気の抵抗なら、お前、奪われたい放題だぞ。。」 「奪った人が言わないで下さい!!」 「つまり、嫌じゃなかったんだろ?それが、どういうことか分かって無ぇだろ。」 鼻で笑ってやれば、はぎっと睨んで文句を言ってくる。 でもすぐに奇妙に眉間に皺を寄せて考えているような表情になった。 どうやら、俺が言った言葉を真に受けているらしい。 こいつ、洗脳とか催眠とか、絶対引っかかるタイプだな。 「――先輩は、どういうことだか分かるの?」 結局、答えに至ることが出来なかったらしいが首を傾げてくるので、俺は口角を吊り上げて答えてやった。 我ながらに、悪人らしい笑みだったと思う。 「つまり、お前も俺のことが好きなんだろ。」 「そんな馬鹿な。」 こんなときばっかり即答したに、うっかりもう一度制裁の意味を込めてキスしたのは、俺に言わせれば不可抗力だけどな。 もちろんはその後も盛大に抗議してきた。 |
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