唐突にヨークシン行きが決まったから、急いで旅行の準備をしなきゃいけないかと思ったけど、でも思えば私、そんな用意するほどの物が無いなあとか思ったり。 せいぜい着替えくらい? オークションに参加するならお金とか必要なんだろうけど、別に欲しいものは無いし、つーか今年の目録なんて微塵も見てないし、そもそもお金が無いから参加という発想が無い。 私がヨークシンに行きたい理由は、ただ単に、ちゃん的にはクロスオーバーな展開が珍しかっただけだったし、だからヨークシンがどんなトコなのか気になっただけなんですよ。 本当に。 ま、旅団のアジトの跡地とかウボォーさんの埋められた場所とか巡るなら、シャベルくらいは用意したほうがいいのやも知れんが…、と。 いそいそとシャベルを探し始めたところで、コンコンと部屋の扉がノックされた。 「はぁい。開いてますよー」と答えれば、入ってきたのはボスで。 「ボス、どうしたの?お見送り?ザン様たちもう来たの?」 矢継ぎ早ってほど早くは無いけど、首をかしげてやってきたボスを見やれば、ボスは少し苦笑を浮かべてからばらばらと何やら小さい箱と指輪を私の手の平に落とした。 「、これ。」 「なぁに?これ。指輪?と、箱?」 「うん。とりあえず7種類全部のリングと匣を持ってきたから。護身用に荷物に入れといてね。」 「こんなに?なんでまた…。というか、何なのさ、コレ。護身用の指輪なの?メリケンサック?」 危うく掌から落ちそうになるその匣とかを、何とかバランスを取ってとどめる。 指輪も箱も、全部で7つずつ揃ってた。 箱は、なんか苔生した感じのとかがあって、正直長く触ってたくないとか思ったり。 「知らない?コレ、匣とリングなんだけど。」 「うん、箱と指輪でしょ?そりゃあ見れば判るけど。なんに使うの?指輪とその保管ケース?私も遂にボンゴレの守護者入り?」 ボスがちょっと困ったように首を傾げる。 えー、何?その知ってて当たり前的な反応は。 指輪は嬉しいけど、この量とシチュエーションからして、絶対婚約指輪ではないはずだし。 「まあ、帰ってきたら詳しく説明するよ。いいから持って行って。せっかくのために引っ張り出してきたんだし。」 「う〜ん。持ってくのはいいけど、こんなに一杯持ってく必要があるの?」 「うん。だっては、まだ自分が何の属性かしらないでしょ?だから、一応不測の事態に備えて、全部持っていって貰った方がいいかと思って。自衛の手段だよ。」 とりあえず、両手に山のような箱と指輪をベッドに移動させて、その中の一個を手に取って見る。 それは、精緻な意匠の綺麗なくすんだ銀で、燻し銀だっけ? なんかそんな雰囲気の奴。 この指輪と箱が一体何になるのか良く分からなかったけど、ためしにその手に取った一つを指に嵌めてみたら。 「――ボスー。なんかサイズがデカイんですけど、この指輪…」 すっぽすっぽ上下に動くそれに、切なさを覚える。 うわーん。 せっかくの指輪なのに、指に嵌められないんじゃ意味無いじゃんかー。 恨めしげにボスを見上げれば、なんか意外そうな表情で顔を視線を彷徨わせていて。 ボス、女の子に指輪を贈るときは、サイズくらいちゃんと確認しようネ。 「ま、まあとにかく。本当に使い方が分からないなら時間と物資のムダだけどね。でも、何となくは使えそうな気がしたから。」 「それは、ボンゴレ的超直感?」 「まぁね。いざとなったら、リングに覚悟を焔のイメージで灯して、そのままかちって匣に嵌め込んで開いてね。そしたら後は匣が勝手に攻撃するから。」 「ワオ。何その超アバウト過ぎる説明。まあいいけど。じゃあ、有り難く受けとらせて貰うよ。使えるか使えないかはまた別問題として。というか、武器なのね、コレは。」 なんか今更ながらに装飾品ではないらしいそれを見つめてみる。 綺麗なんだけどな。 指輪じゃないんだ? 兵器なのか? はっ!! もしかしたらレーザーが出るとか?! ちょっとわくわくしてきました、隊長!! でも、そんな私のわくわくっぷりを綺麗にシカトして、ボスは何やら心配そうな表情をしている。 「?とにかく気をつけて。出来なさそうなら無理にリングを使わなくてもいいから。ちゃんと帰って来て、俺にリングと匣を返すって約束して。」 「ひぃっ!!それは出来ない!出来ないよ、ボス!だってそれ、死亡フラグだもん!」 「――は?」 「映画とかであるでしょ?大事なものを預けて、『これを返すために私のところへ帰ってきてね』ってやつ。あれ、大抵は遺品になって帰ってくるんだよ!だから無理!約束出来ない!」 というかさ、つまりボスは私がオークションに行くのが心配なのね? そうなのね? ということは、オークションってそんなに危険なのか? まあ、H×Hの世界だしな…。 どうしよう? そんなに危険なトコロなら、そこまでして行かなくてもいいんだけどな…。 とか、思ってみたりしたんだけど。 どうやら私の反応が、ボスにはお気に召さなかったらしい。 「あーうん。わかった。もう返せとは言わないから、とっとと逝ってらっしゃい。」 ――最後には遠い目をして匙を投げられました。 えー、死亡フラグ成立しちゃった? |
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