、君が傷痕だらけなのは、今更のことなのかも知れません。 けど、君を救う為に『良くない場所』からボンゴレに保護したというのに、どうして傷痕が増えていくのですか? 「。ちょっと聞きますけどね、手首に紅い痕が残る場合、どんな可能性が上げられると思います?」 気付いているのは僕だけではないようでしたが、ボンゴレはいつまでたってもちらちらとを伺うばかりで聞く気配が無かったので、仕方が無いから僕が聞きました。 ボンゴレ、君は仮にもの保護者でしょう? 本当なら、コレは君の仕事なのではありませんか? と、呆れた視線を向けるのも、もちろん忘れませんでしたよ。 ちなみに、問われた本人は、急に何の話なんだろうという感じで、きょとんと僕を見返した後にあごに手を当てて「考える人」のポーズを取りながら答える。 「――@誰かに強く掴まれた、A誰かにきつく縛られた、Bなんちゃって好奇心でリストカットをしてみた。とか?」 「どれも穏やかじゃないですね。」 「そうですね。」 「で、どうして君の腕はこんなになってるんですか?@とAとBのどれが原因ですか。」 僕は遠慮も減ったくれもありませんからね、これくらいを聞くのどうってこと無いですよ。 大体、手首に自傷行為の痕があるからって、それが立ち入っちゃいけない領域であるかどうかは、人によって違うものです。 ボンゴレはに対してその見極めが出来ないようでしたが、僕の見るところ、はそれほど繊細なイキモノでもないようですし。 少なくとも表面上はね。 案の定というか、は小さく肩をすくめてあっさりと答えた。 「別に、気にしなくても大したものじゃないよ?」 「そんなわけ無いでしょう。」 「じゃあ、気にしてくれてもいいけど、大したものじゃないよ?」 「、君は僕に喧嘩を売ってるんですか?」 「えー、じゃあ、何て言えばいいのさー?」 「何て答えるかが問題なのではなくて、どうして君の腕がそんなことになっているのか、僕はその点についてを聞きたいんです。判ってますか、?」 「何でって言われても……何でかねぇ……う〜ん……」 「正直におっしゃい、。」 は困ったように眉間に皺を寄せる。 適当に答えつつも、その手首を隠そうともしないし、だから多分彼女の中で、その行動の比率は高くないと思うわけです。 もちろん、僕の私見ですが。 それでも口ごもっているのは、触れられたくないというよりは、何か悪戯をして見つかってしまった悪餓鬼のような心境にでもなっているからでしょうけど。 もちろん、理由が妥当なものでなければ怒りますけどね。 女の子が容易に体に傷をつけちゃいけませんから。 「てか、ボスとかは気付いてなかったみたいなのに、どうして骸さんにはバレちゃうかなー?」 「何言ってんですか。ボンゴレも、その愉快な仲間たちも、元風紀委員長も、皆気付いてます。」 「うぇぇっ?!マジっスか?!」 「マジですよ。聞けるか聞けないかの差でしょう。彼らは貴方を箱入り娘にしたがってますからね。」 「えー、そうかなぁ…。私、愛されちゃってる?」 「もちろん。僕も君をこの上ないくらい愛してますよ?だから心配で心配で仕方ないんです。さぁ、話を逸らしてないでさっさと吐いてしまいなさい。」 「骸さん、前半超棒読み。」 「?」 「ゴメンナサイ。」 「謝らなくていいから、ちゃきちゃき吐きなさい。」 話を逸らすにも、君はあからさま過ぎますよ、と。 言ってやるべきでしょうかね? でも、一喝するがごとく、ひと睨みすれば、はしゅんとして視線を自分の足元に向ける。 反省している、というよりは、諦めたようなその動作は、愛玩動物が飼い主に怒られている様そのもので。 でも、答えたの自傷の動機は、愛玩動物がするような行為とはかけ離れた発想からで。 「あのね、腕に、リスカの痕かなぁって感じの傷があったの。だから、リスカってどんなものかなって気になって、ちょっと切ってみたの。以上。」 ――何が『以上』なんでしょうね。 相変わらず下を向いて、少し項垂れた様子のをよそに、他へ視線を向ければ、ボンゴレも愉快な仲間たちも、何か非常に曖昧な表情でを見つめていて。 何かしてやりたい説教でもあれば、譲っても構いませんけどね、と、視線だけで言っても、彼らにはどうやら通じなかったようです。 仕方が無いので、あからさまに一つ溜め息を吐いてから、の顔を上げさせて応える。 「――気になったからという理由で切るんですか、君は。Mなら変わりに苛め倒してあげますから、次からは切る前に僕のところへ来なさい。」 「いやいやいやいやいや。骸さん、そんな気遣いは不要だから。私Mじゃないから。言われなくてももうしないから。上手く切れなかったし、地味に痛いし、リスカは多分ちゃんには合わないんだよ。」 リストカットを実行したとき同様に、非常に微妙な理由でその持続性を否定したの言葉は、その返事の前半の真剣さもあいまって、多分嘘ではないのだろうな、と感じさせるには充分な響きを持っていた。 前半は、否定してくれなくても良かったんですけどね。まあ、いいでしょう。 とりあえず、念を押すように「じゃあ、もう切ったりしませんね?」と聞けば、はしっかりと首を縦に振って答える。 よろしい、じゃあ、それを信じてあげましょう、と。 言おうとしたら、「あ、でも……」と零したので、僕は少しだけ眉根が寄るのを自覚しました。 「でも、何ですか?」 「血は、ちょっと綺麗だった。」 ――。 その発想は嫌いではありませんけどね、口にするのは僕や雲雀恭弥の前だけにしなさい。 背後でボンゴレがまた、非常に微妙な表情をしていますよ。 僕としては、そう零したときのの表情は、とても無邪気で愛らしくて、柄にも無く胸が高鳴るほどに美味しそうでしたけどね。 |
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