Replica * Fantasy







No.41  【 憧れて、尊敬して、崇拝して、 】




 つまり、何かの宗教の教祖様だか教主様でも迎えるかのような熱狂ぶりを持って登場した、自身の在籍する学校の部長の姿に、は唖然とした。
言葉も無いとは、まさにこのこと。
「勝つのは氷帝!負けるの青学!」という、どこであろうと相手をにアウェー気分を味わせる盛大な応援の中を、跡部はむしろそれが当然とでも言わんばかりに姿を現す。
アレを恥ずかしげも無く扇動する跡部もさることながら、ノリノリで行ってしまう200名の部員たちの正気を、はうっかり疑いそうになってしまった。
 それでも、出来れば近づきたくないところか、知り合いと思われるのもイヤだなぁと思っていたのに、跡部が更に調子に乗ってジャージの上着なんぞ放り投げるから、仮にもマネージャーという役職にあるは苦虫を噛み潰したような表情でこっそりとそれを回収する羽目になった。
つまりそれは、浴びなくてもいい視線を受けてしまったわけで。
 跡部は普段よりも機嫌良さそうにを見てわずかに笑ったが、はそれには気付かないふりをしてさっさとマネージャーの荷物を置いた自分の定位置に戻る。
その様子を見ていた忍足と滝が、戻ってきたをひどく面白そうに笑っていた。


「まあ、そんな顔せんといてぇな、ちゃん。あれも、跡部の仕事の内なんや。」
「そうそう。跡部は自分のカリスマ性を良く知ってるからね。ああやって部員の士気を上げてるんだよ。」
「嘘。だって二人とも、顔が爆笑してるじゃないですか。皆どうかしてます。新手の悪徳宗教とかに洗脳されてるんじゃないですか?俺様教とか。」


 即答で、しかもとてもとても不審な表情で言い返してくるに、ついに忍足は笑いを堪えることが出来なくなったらしい。
『俺様教?!』と裏返った声で繰り返すと、そのまま地面にのめりこんでしまいそうな勢いで笑い転げた。
 言いえて妙だな、と。
滝も思ったが、大真面目な表情で跡部のジャージを畳みながら冷ややかな視線を送るに、さすがに跡部が不憫に思えたのかフォローを入れることにしたらしい。


「まあ、跡部のことだから、八割くらいは自分に酔いしれながらやってるとは思うけどね。でも、あーすることで部をまとめて、士気を上げているんだ。跡部にしか出来ないことだよ。」
「あー、うん。そうですよね。」


 何だか物凄く納得したように頷くその表情は、多分『跡部にしか出来ない』という一点においてのみに反応したのだろう。
だけど、少なからず滝の言っていることも理解したらしいは、跡部が放り投げたジャージを相変わらずその手に抱えながら笑った。


「そうですよね。うん。私、跡部先輩の頭の螺子が何本も抜けちゃったのかと思いました。」


 ドライバーなんて持ってないし、どうしようかと思っちゃいました、と。
無邪気な表情でさらりと毒を吐くは、思わず苦笑を浮かべた滝に更に続ける。


「でも、そうじゃなかったんですね。多分あれ、頭の螺子をぎちぎちに締めすぎちゃってるんですよ。だからあんななんです。」


 どっちにしても、今日はドライバー持って来てないから、緩めて上げられませんね、と。
 多分は跡部を思いやっての言葉だろうし、悪意なんて無いのだろうから、つまりは本心から言っているのだろう。
滝が反応に困って曖昧に微笑んでいると、不意にガシィっと音を立てて手塚の手からラケットが飛んだ。
 経過を見ていなかったと滝は、引き寄せられるようにコートに視線を向ける。
その中心には、ポイントを奪った跡部が悠然と立っていて。
 手塚が全国区であることはも知っていたし、今までの試合も接戦であったから、青学が手ごわい相手であることはいわれるまでもない。
だけど、その手塚を相手にラケットを吹っ飛ばすほどの威力を持った跡部のプレイに、やはり腐っても部長なのだと、は跡部を見直す気になった。が。
 続く彼の言葉に、その評価はコンマ0024秒で覆されることになった。


「俺様の美技に酔いな。」
「――…馬鹿ですか?」


 跡部はやっぱり部員をまとめるとか、士気を上げるとか、そういうことに関係なく自分に酔いしれているのだろうと。
確信したの口から思わず零れた言葉に、両隣にいた滝と忍足が同時に噴出したのはもはや不可抗力と言えるだろう。
 幸いにして、と言うべきか。
その言葉は周囲の女生徒の放つ黄色い悲鳴にまみれて、跡部の耳に届くことは無かったが。






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2008/05/16
何となく手に取った巻が手塚戦でした(笑)。



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