閉じた瞼が焼けるような感覚に、は眼を醒ました。 気が付いて、眼を開いた瞬間に、慌ててまた閉じる。 太陽の角度が大分変わっていた。 「ん…日番谷くん…そろそろ起きないと乱菊さんに怒られちゃうかも…」 昼過ぎに二人して縁側での昼寝を決め込んだは、隣で眠っている筈の日番谷に声をかけながら起き上がろうとしたが、途中で止まってしまった。 首だけ動かしてみれば、隣では固い床に俯せになった日番谷の右腕が、の体に絡んでいた。 たかが腕一本。 されど腕一本。 意識が無く、故に弛緩した人体というものは以外に重量があるため、草鹿やちるに次いで軽量小型のはたやすく行動を封じられてしまった。 「日番谷くん、日番谷くん。しろちゃん、起きて?」 何度声をかけても、日番谷が起きる気配が無い。 困ったな、と、思いながら、のほほんと日番谷の顔にぺたぺた触れていると、不意に上から声が振ってきた。 「隊長もも、仕事サボっていちゃこくなら、こんな公衆の面前でなくてもいいでしょうに。」 それだけで声の主が分かってしまったは、やはり首だけ動かしてそちらを見上げた。 「お昼寝してただけだよ?でも日番谷くん、全然起きてくれないの。疲れてるのかなぁ…?」 「隊長が起きない?そんな馬鹿な。いつもあたしが近付いた気配だけで目ぇ醒ますのに。」 自隊の隊長を見遣ってから、乱菊は一つ、ため息にも似た呼吸を落として笑う。 「よっぽどの側が落ち着くのかしらね。」 その言葉に、は少しだけ考えてから、もう一度乱菊を見上げて問い掛けた。 「乱菊さん、今日は急ぎのお仕事、ある?」 「仕事はあるけど、隊長の分はちゃんと残しておくから平気よ。」 日番谷をこのまま寝かせておくことには同意してくれても、その分の仕事はきっちり残すという乱菊に、は少しだけ笑って「ありがとう」と答えた。 そしてもう暫く眠ってしまえと、その暖かな日差しの感覚に身を委ねた。 同日夕方、日番谷が眼をさますと、もう既に日は翳ってきていた。 ほんの少しのつもりで転がっていたのだが、思いのほか寝過ごしたらしい。 残った眠気を追い払うように、そして予定外に寛いでしまったことを少し後悔するように、眉間に皺を寄せる。 しかし、そのまま起き上がろうとすれば、それほど強くはない力がそれを留めた。 が日番谷の死魄装を掴んでいるため動けない。 「、起きろ。」 ごく短く声をかけて、ゆさゆさと身体を揺すってみるが、はいっこうに起きる気配が無い。 随分と熟睡しているようだ。 それだけ、自分に無警戒なのかと思えばそれも嬉しいが、だが、いつまでも此処に居るわけにも行かない。 もう日は殆ど沈みかけているし、自分は今日眠ってしまった分の仕事をしなくてはいけないだろう。 「、起きろ。起きないんなら、せめてこの手を離せ。」 そうすれば、自分は起き上がって、を運んでいくことが出来る。 最初から、日番谷にはを放置することなど考えていないから、出来ればそれがベストなのかも知れない。 暫くの顔や髪に触れて起きるのを待ってみたが、はいっこうに起きる気配がない。 これはもう強引に引っぺがすしかなかろうかと思う始めていると、不意に上から声がかけられた。 「あら、隊長。やっと起きましたか。」 「――松本。」 いいですねー。 今日は一日好きな娘といちゃこらしてるなんて、隊長羨ましいですねー、っと。 乱菊は殆ど棒読みで笑いながらからかって来る。 「ちゃんと隊長の仕事とってありますから、が起きたらやってくださいよ?」 そして、散々からかいとも嫌味ともつかない言葉をかけると、乱菊は手に持っていた毛布を日番谷との上にばっさりとかける。 「流石に、何も無いと風邪引くかもしれませんからね。」 「ちょっと待て松本。俺に仕事をして欲しいなら、とりあえずを引っぺがせ。」 によって行動範囲が極端に狭められている日番谷は、もぞもぞと顔を出すと、その状況には明らかにミスマッチな態度で乱菊に苦情を言う。 それにたいして、乱菊は部下ではなく年長者の態度で応じた。 「あらら、隊長はそんなコト言うんだ?さっきが起きて、隊長がをぎゅぎゅ〜vvって抱きしめてたせいでが起きられなかったときは、彼女『もう少し寝かせておいてあげても平気?』って言ってましたけどねー。隊長は起こしちゃうんだー?へぇー、そぅ。」 「―――………。」 つまりは、が起きるまではもう少し付き合ってやれ、ということなのだろうか。 憮然としながらも、日番谷はそれ以上反論できなかった。 それを確認して、乱菊は楽しそうに言う。 「よろしい。ちなみに仕事はちゃんと残してますから、が起きたら頑張って下さいね〜。」 そのままひらひらと手を振って行ってしまった乱菊の後姿に向かって、日番谷は小さくしたうちをする。 もちろん、が起きないように音を制限して。 もう諦めて大人しくが起きるのをまとうと、少し身構えていた身体から力を抜けば、が待ち構えていたように擦り寄ってくる。 どきりとして彼女の顔を覗き込めば、は愛らしいその顔を、幸せそうに微笑ませて、やはり熟睡していた。 |
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