仕事を終えて、帰ってきたのは真夜中だった。 別に泊まって来てもよかったけど、何となくスピードを出して走りたい気分でもあったし、夜中なら余計な顔も見なくて済む。 と、思ったのに。 報告書を置きにきたのがまずかった。 見つけてしまったから。 部屋の隅で膝を抱えてる子。 「こんな時間にこんなところで何してるのさ、?」 「――あれぇ?ひばりさん?」 眠そうな声が続いて、体育座りで顔を伏せていたが僕を見上げてくる。 ああ、酷い顔。 今更だけど。 大方、夢見が悪くて誰か群れてないか此処に来たんだろう。 「馬鹿じゃないの?」 「――帰って来たかと思ったら、理由も聞かずにいきなりソレですか。『雲雀さんを待ってたのvv』とかだったらどうしてくれるんですか。」 「へぇ?僕を待ってたの?夢見が悪くて心細くなっていつも誰かしらが群れてるこの部屋へ来てみたものの誰も居なくて不貞腐れてたとかいう理由じゃなくて?僕を待ってたのなら、聞いてあげるからそう言ってみれば?」 「――ボンゴレにエスパーはいらねぇヨ。」 つまり図星なのか。 馬鹿正直に認めて、頭悪いんじゃないの、この子。 別に疲れるような仕事じゃなかったけど、急に疲れたような気がする。 何この脱力感。 僕が白々とを見れば、は妙に真面目腐って応えた。 「あのね、みんなでネズミーシーに行ってね、そこで何故かなんちゃってバトルロワイヤルが始まっちゃうのよ。皆逃げ惑うから、半分リアル鬼ごっこなんだけどさ。そしたら何故かSの惑星からエイリアンが襲撃してきてね、ボスとかザン様とか、雲雀さんも戦ってるんだけど、そのうち対エイリアンS.W.A.T.が突入してきてね、私たちみんな寄生されたと思われて、排除対象にされちゃったの。シーを囲むように爆発物を仕掛けられて、丸ごと爆破されそうになったから、必死に抵抗するんだけど、ルッス姐さんがお腹に卵植えつけられちゃってね、最後は胎を食い破られそうになりながらエイリアンの子どもごと火山に飛び込んで、私は泣く泣くS.W.A.T.から奪った起爆装置のスイッチを回したんだ。みんなの死体と共にエイリアンもS.W.A.T.もネズミーシーごと海に沈んでね、尊いギセイの果てに、地球の安全は守られたんだよ?」 まるで滅びの山に指輪を捨てに行った後のようなやりとげた感を振りまきながら、は少し早口でまくし立てる。 ちょっと、どころか、激しく意味が分からないんだけど。 「で?地球を救ったのとこんなところに居るのと、何が関係あるのさ?」 しかも、結局僕を待ってたわけではなくて、夢見が悪かったんじゃないか。 別に微塵も期待してなかったけど、こういう時には初志貫徹してそういうことにしといた方が世渡り上手になれんじゃない?と。 まぁ言っても意味無いだろうけどね。 だし。 そんな風に思いながらも問いかければ、はふざけているとしか思えない内容の夢について、至極真面目に応えてくる。 「エイリアンならともかく、ボンゴレやヴァリアーのみんながS.W.A.T.ごときに殺されちゃったのがショックだったの。それに、シーごと沈めたって、所詮は埋立地だからはちゃんとエイリアンが死んだか心配だよね?」 「馬鹿じゃないの?」 こんなふざけた会話を相手に、咬み殺さなかった僕は随分丸くなったものだと思う。 それとも、咬み殺す気力すら殺がれる程に、の発想が突拍子も無かっただけだろうか? 後者だとすれば、中々手強いなと思いながら、他に返す言葉も見つけられなかった僕は、もう一度同じ言葉でさっくり刺して一つ溜息をついてから、薄暗くて肌寒い部屋の片隅で膝を抱えたままだったに、手を伸ばした。 |
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