ぐったりと地面に横たわったは、しばらく緑の向こうに続く空を見上げてから、うっとりと目を閉じた。 潜入捜査用に用意されたモルゲンレーテの作業服の生地は薄く、少し湿気を帯びた土の感触も、生々しいほどリアルにの肌に伝えてくる。 そこから立ち上る土の匂いや、風が囁きながら流れる音や川と海がぶつかり合う声を聞きながら、はほんの僅かに微笑んだ。 総てのモノが人工物であるプラントに生まれ育ったにとっては、地球とは感動の嵐だった。 いちいち歓声を上げる度にイザークとディアッカには馬鹿にされたし、アスランとニコルには苦笑を向けられたりしたけれど、凄いモノは凄いのだ、と。 むきになって抗議したら、結局は笑われて終わってしまった。 どうせなら、足付きやらストライクやら、戦争だのなんだのと気にすることなくこの感動を味わえたら良かったのに。 ごろりと体制を変えて、横向きに転がる。 小さな石が身体の側面に当たって痛い。 草の生え際がよく見える。 蟻が、連なって歩いていた。 ぼんやりとそれらを見ながら、は思考回路を視界が及ぶ範囲からもうすこし広げる。 今頃、アスランやイザーク達はモルゲンレーテを探っている頃だろうか。 この状況下では、いくらオーブが公式発表で足付きの離脱を宣言したところで、説得力など皆無だ。 足付きは、キラはきっとオーブにいる。 アスランが潜入捜査を提案したことは、間違っていない。 個人的な事情を挟むなら、戦いたくない。だけど。 結局、は潜入捜査に参加はしたが、上陸地点での待機役を申し出た。 もし街中で、モルゲンレーテで、キラを見つけてしまったら、他の誰がアラスカへの追跡を再開しようとしても、自分はオーブに残ると言ってしまうだろうから。 どうして残るのか理由を聞かれても、今はまだ答えたくなかった。 だけど、此処に居るのだと確信が無ければ、きっと作戦において私情を挟むことも無い。 どっちみち、艦との連絡係として、待機役も必要だったのだし。 「サボる気ですか、?」 「女の子の日なの。ちょっとお腹も痛いから。今日だけ見逃して。」 サラっと切り返したに、ニコルは返す言葉に困って固まった。 その後ろでディアッカは笑うし、アスランは顔を僅かに染めるし、イザークは諦めた様であからさまな溜息が一つ。 そんなやり取りの後に出掛けて行った彼らも、そろそろ戻って来る頃だろう。 は目を閉じたまま感覚を研ぎ澄ます。 と。 やはり複数の足音が、地面を伝ってこちらに近付いて来るのが分かった。 捜査の状況を聞くのが何となく嫌で、はそのまま狸寝入りを決め込もうとした。 実際疲れていたし、宇宙艦や潜水艦など、揺れない場所で横になるのは久々で心地良かった。 しかし、十秒あれば即眠りに落ちそうなを、同僚達は容赦無く起こす。 「!こんな所で倒れてどうしたんだ?!」 「敵か?!襲撃されたのか?!」 「貧血かなんかだろ?女の子の日だから。」 「ディアッカ、一言余計です。あ、アスラン、イザーク。急に起こしちゃダメです!本当に貧血だったらどうするんですか?!」 「そうだそうだ。人の安眠を妨害しないでよー!」 何も考えずに走り寄って来たアスランとイザークにがっくがっく揺すられて、は静寂の中のまどろみから強制送還を余儀なくされた。 ささやかに抗議をすれば、今度は「心配させるな」とか「紛らわしい」とか、言われてしまい、「そっちが勝手に勘違いしたんじゃない」と、言い返そうとしたが、背後でニコルが無言で微笑むので、飲み込んでおいた。 「で、はこんなとこで何してたワケ?死体の真似?」 ノドの奥で笑いを噛み殺しているディアッカは、上半身だけ起こしたの頭に付いた草を払ってやりながら問い掛ける。 少し乱暴な手つきだが、互いに気にした様子も無い。 「空を見ていたの。あと、川のせせらぎとか、風の囁きとか、潮の香りとか、地面の感触とか、蟻とか草とか、そういうの、いろいろ。」 「空?」 「お前、俺達が一日中歩き回って足付きの動向を探ってる間、寝てたとは言わないだろうな?」 「イザーク、あんまり怒ると血圧が上がっちゃうよ?」 酷く遠回しに肯定した後で、はもっと近道で認めた。 「今日は凄い雲が早かった!」 その言葉に、イザークだけでなくアスランもディアッカもニコルも、自分の顔が引き攣るのを自覚した。 それこそ不可抗力だっただろう。 |
(C) 2005-2009 Replica Fantasy 月城憂. Some Rights Reserved.