「ベル君はさぁ…。」 「んー?」 「ホンモノの王子様だったんでしょ?」 今日は何を切り刻んできたのか、何やら超ご機嫌でナイフのお手入れをしているベル君を見ていたら、特に後先考えたわけでもなく言葉が出ていた。 でも、別に深い意味なんて微塵も無いつもりだったのに、その一言であんなにご機嫌だったベル君の手が止まって、くるりと振り返る。 「何?、王子様願望でもあんの〜?」 「――別に、王子様願望は無いけど…」 気のせいかな? ベル君は微妙に殺気を滲ませているような気が……。 ちーか、お願いだからさりげなくナイフ向けるのはやめれ。 いつもは自分で「だってオレ王子だもん」とか主張してるくせに、他人に言われるのはイヤなのだろうか? 「じゃ、何で急に?」 「殺人狂の王子の原産国は、どんなところなんだろうなって思っただけ。」 きっと、大変な国際問題に晒されてるに違いないとか思って聞いてみれば、ベル君は一瞬止まってから多いに笑い転げた。 「フツー俺が何者か分かってて聞く?」とか言われたので、ちょっとムっとして「分かってるもん、プリンス・ザ・リッパーでしょ?」と答えれば、「わかってねーよ。」と更に言われた。 何だこの王子。 意味が分からん。 「ししし、まあ、王子の原産国はとりあえず跡継ぎ問題でも起きてるんじゃね?」 「ああ。双子のお兄ちゃんメッタ刺しにしちゃったから?」 確か、12巻かそこらの嵐のリング戦でベル君がはっちゃけちゃった時にそんなことを言ってたような気がする、と。 頭ん中でコミックスを捲っていたら、いつの間にかベル君が近くに来て、手にナイフを遊ばせたまま私の肩を抱いていた。 「ベル君、顔近くね?てか、絶対動くなよ?ナイフ刺さないでよ?」 「はなんとも思わねぇの?」 「何が?つーか、ベル君私の話聞いてないよね?今更だけどね。」 こんだけ至近距離でも、意地でも目を見せないベル君。 でも呆れてることぐらい分かるし。 とりあえずナイフが刺さらなきゃ言いやと思って考えてみる。 「おとなしくしてればそのまま王族特権で超金持ちの悠々自適生活が出来たのに、お兄ちゃん殺して家出してあまつさえその転がり込み先にヴァリアーを選んだことについて、突っ込んで欲しかったの?」 ちゃんにとってはこれ以上無いくらい的確に答えたつもりだったのに。どうやらベル君的にはNGだったようです。 「ししし。に聞いた俺が間違ってた。王子珍しく選択ミスしちゃったよ。、ちょっとヒマだし、そこらへん転がってみ?王子も突っ込んでやるから。」 「私とベル君じゃ突っ込むに込められた意味が違ぇよすいませんごめんなさい謝るから見境なくとりあえず盛り王子になるのは止めてくださいマジ落ち着いてお願いだから。」 もー何考えてるのか分かんねーこの王子!! 前髪結んでやろうかしらとか思ったけど、そんなことしたら多大な確立でベル君のお兄ちゃんと同じ運命を辿る気がしたので、ぐっと我慢。 が・ま・ん! 「でも、ベル君は根っからの殺し屋だったんだねぇ。普通、王族の血縁殺しは自分が王座につくためにするもんだと思ってたヨ。」 ベル君の場合は、そっから自分も全部放り出して来ちゃったもんね、と。 無理矢理話を逸らしつつ、若干本気で感心してみれば、ベル君は近距離のまま笑った。 「ししし。面白かったぜー?第二継承権がついに第一を殺したー!ってな。」 「まあ、その反応は普通の反応だと思うけど…て、『ついに』?」 「んー、俺ら常日頃から殺り合ってたから。常日頃ってか、生まれたときから?」 「疑問系かよバイオレンス兄弟め。まあ、何でもいいけどさ。」 ベル君の顔はともかく、ナイフが離れたのを確認しながら答えれば、ベル君はちょっと不思議そうに「何で?」と聞いてくる。 ん? 何でって、何が? まさかベル君、兄殺しの是非について聞いてるのか? 暗殺部隊なのに、今更最初の一人のことを気にするのか? それとも、一番最初だから? 「だって、お兄ちゃん殺してなければ、ベル君はベル君じゃなかっただろうし。」 「は?何言ってんの?」 「だからね、お兄ちゃんを殺さずに、自分の衝動を殺して押さえ込んでいたら、ベル君は別の意味で狂ってたんじゃないってこと。」 まあ、それ以前に殺り合いだったら反撃せんことには殺されるわけだし、反撃するとなれば相手を殺す可能性だってフツーにあるわけだし。 大体もっとそれ以前の話として、ベル君は自分から暗殺を取ったら、どうなったと思う?と続けて聞けば、そーぞー出来ねー!と、返される。 「ね、だから、ベル君はどっちにしても裏切り者の王子様なの。自分を裏切っておとなしく殺されるか、周りを裏切って兄貴を殺すかどっちかだったってわけ。良かったじゃん、初仕事が一応正当防衛で。」 まあ、だからといって殺人を肯定するわけではありませんけどね。 ちゃんはヴァリアーのみんな大好きっ子だし、それこそ、暗殺部隊に言ったって今更だから言わないけど。 でも、ベル君がお兄ちゃんを殺して家出をしなかったら、私とベル君は出会わなかったんだよな、と、そういう思いを込めて言ったというのに。 ベル君から返された言葉は、超失礼極まりなかった。 「へえ。もたまには頭良さ気なこと言うじゃん。でも『裏切り者の王子様』とかって、ネーミングセンス無ぇよ。」 |
(C) 2005-2009 Replica Fantasy 月城憂. Some Rights Reserved.