Replica * Fantasy







No.20  【 二度は言わない 】




 膝を抱えたは、キルヒアイスの部屋のソファを占領して小さく丸まっていた。
最近、彼の元へ訪れることの多いこの少女は、今日もどこかぼんやりとまどろんでいるかと思えば、不意に突拍子も無いことを言い出す。


「ジーク。」
「何だい?」


 それに慣れているキルヒアイスも、デスクに並んだ仕事の書類に視線を落としたまま答える。


「ジークはお兄ちゃんだけど、血は繋がってないのよね?」


 呟いたは、まだどこか漂っているような雰囲気のままだ。
どこか突き放されるような印象を受けるその言葉に、キルヒアイスは即答しかねて無言で顔を上げる。
 どういう意味なのかと、問いかける視線を向けたが、全く明後日の方向に視線を漂わせているは、もちろん気付くはずもない。
もともと、答えなども求めていないのかもしれない。


「――どういう、意味かな?」


 やや口調が固くなったキルヒアイスに、はようやくそちらに顔を向ける。
そしてやはり膝を抱えたまま、少し笑って。


「まだ、言ったことが無い言葉があるなって思って。言っても良いのかな、って。」
「言ったことが無い言葉?」


 反復して聞き返せば、はまだ丸く小さくなって、微笑んだままで。
はにかんだような微笑が、強張ったキルヒアイスに向けられた。


「あいしてるわ。」
「――なんだって?」


 思わず目を見開いて、手に持っていたペンを落としたのにも気付かず、問い返してしまった。
だけどは、やはり笑ったまま、だけどほんのりと頬を紅く染めて一言。


「一度しか言わないもん。」






<<  Retune |  back |  Next >>


2008/05/26
自分では何時でも何度でも言えるけど、彼女のからの言葉には意外なほどに脆かったり。



(C) 2005-2009  Replica Fantasy 月城憂. Some Rights Reserved.
inserted by FC2 system