空耳かと思った高い旋律がそうではないことに気付いて、振り返れば、はウォークマンで耳を塞いでソファで膝を抱えて窓の外を見ていた。 俺が、パソコンにばっか向かっていての相手をしていないから、拗ねてんじゃないかと思うのは、多分俺の願望であって、は別に俺が忙しかろうがヒマだろうが気にしていない。 俺が忙しければ自分の暇潰しを真剣に考えるが、俺がヒマなら俺に合わせようとする。 別には自分が無いわけではないが、もう少し我が儘くらい言わねぇと張り合いが無い。 流石にパソコンの液晶のせいで眼が痛くなったので、一度電源を落としてそこから離れた。 時々漏れる細くて高いの声が、疲れた脳内に心地良い。 そんな変な体勢で、しかも俺に気を使ってか声量を大分落とした状態で、その細い体のどこからそんな声が出るんだか。 特に足音を殺して近付いたわけではなかったが、イヤフォンをして音楽を聞いていたは、俺が側に来てやったのに気付きもしない。 ためしに「」と呼んでみるが、無反応。 あ〜ん?いい度胸してんじゃねえか。 今ここで答えねぇなら、俺の好きにして良いってことだな? すぽっと、流石にイヤフォンを抜かれればも俺に気付くというもので。 いつまでたっても名前で呼ばないが、やはり今回も「先輩?」と漏らすのを無視して、俺は三人掛けのソファに寝そべる。 むろん、頭はの膝の上。 見上げればは、状況が飲み込めていない様子で俺を見下ろしていたから、小さく溜息をついてから答えてやった。 「おい、。」 「あ、先輩。どうしたんですか?」 「疲れた。寝る。」 「寝るなら、ベッドの方が寝やすくないですか?」 「あ〜ん?お前は彼氏にひざ枕するのが嫌なのか?」 「よだれ垂らさないで、私の足が痺れたらすぐどいてくれるなら、いいですけど。」 「俺がいつよだれ垂らして寝てたんだよ。痺れたら、責任取って運んでやるよ。」 「家まで?」 「ベッドまで。」 「私、今日は泊まらないもん。」 「――俺も、止めらんねぇ。」 「心配しなくても、ちゃんと帰るって言ってるじゃないですか。」 「だから、そうじゃねぇよ。」 ちょっと、傷ついたカオしたくせに。 の膝に頭を置いたまま、手を伸ばす。 小さい体だから、俺の腕はすぐの顔に届く。 そのまま顔を引き寄せた。 嫌なら、振り払える速度で。 まるで鈍いも、流石に半分ほども距離を縮めれば俺の意図も読めるというもので。 ゆっくり近付くにつれて、思わず笑いそうになるほど真っ赤になるくせに、それでも拒まないから、俺はそのままの唇に噛み付くようなキス。 にとっては体を屈める少し辛い体勢だったかもしれないけど、構わずにその感触と、の呼吸を存分に味わう。 ぱらぱらと零れてくるの前髪が擽ったい。 角度を変えるたびに漏れる、溜息のようなの声を飲み込んで、ようやく解放した。 真っ赤になって俺を睨みつけてくるに一つ、にやりと笑ってから、俺はその口が苦情を申し立てる前にもう一度、今度は触れるだけのキスをして、先制しておく。 「だから、『止められねぇ』って、言っただろ?」 |
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