Replica * Fantasy







No.18  【 次会う時が最後だね 】




 大喧嘩をした。
まあ、正確に言えば、一方的に、しかも急にが怒り出したわけだが、原因が何なのか俺にはさっぱり分からない。
 いや、実は寧ろ痛いくらい分かるというか、心当たりなんてそれしか無いんだが。
でも今までは同じ状況でもは別に怒ったりしなかったのに、今日は何故に?というくらい、とにかくはもの凄い剣幕で怒ってて、俺はどうしていいか分からなかった。
 だからが酷く厳しい顔して見上げてきても、返す言葉を見つけられなくて、そんな俺を見限るように、は最後にこう言って俺の前で身を翻したのだ。


「もう、いい。ディーノさんなんか知らない。次会うときが、最後だよ。」


 酷い拒絶だ。
だけど、泣きそうな表情で言われてしまっては、こちらとしても怒るというより心配になってしまうから。
 それに、「次会うときが最後」という、が残した言葉。
つまりそれは、まだ終わってないけれど、次が最後のチャンスなわけだ。
追い掛けて来て欲しいという、ささやかな意思表示。
次にがどうして怒っているのか気付けなければ、俺は本当に見限られてしまうかもしれないのだろうけど。
さて、どうしたものか。


「なあツナ。俺どうしたらいいと思う?」
「う〜ん…。というか、ディーノさん出掛けてた間、なんか地雷でも踏んだんですか?」


 があんな怒るなんて、珍しい、と。
ツナは部屋のドアを眺める。
やっぱり言わないとダメかぁ、なんて思いつつ、言わなくてもどうせそのうち報告が入るだろうと諦めて、弟分に今日一日の報告をする。


「ちょっと襲撃されてさ。てこずっちまった。」


 と街に出たのは、前々からの約束だった。
ショッピングをし、ピザ食ってブラッドオレンジのジュースを飲んで、ジェラート食って。
なんか俺ら食ってばっか?
だっての奴、何でも美味そうに食うからさ、何か食わせたくなるんだよな。
そんなわけで、ジェラートで締めて、さて帰ろうと車のエンジンをかけたところで銃撃。
 もちろん、は無傷で守ったぜ?
大事なお姫様だしな。
でも、俺が完璧に撃退したわけじゃなかったんだな、これが。


「――ディーノさん?確か今日は、と二人でデートでしたよね?」


 ツナの声が低くなる。
睨んでくれるな、弟分よ。
多分、お前の想像通りだよ。
今日はと二人だったから、俺は跳ね馬ディーノじゃなくてへなちょこディーノだったんだ。


「で、部下無しでどうやって切り抜けたんですか?」


 うわー、視線が痛い。 言葉が痛い。
耳を塞いで視線を逸らしたいけど、まあ無理も無い。
ツナに限らず、ボンゴレはを溺愛してるからな。
怪我なんてさせたら、ボンゴレの敷居は跨げなくなること間違いなし。


「仕方無いから、手榴弾で蹴散らして逃げたぜ?車に乗ったままだったしな。は銃で応戦してたけど。」


 ちなみに、物凄い命中率だった。
けど、ツナは「も応戦」ってあたりですでに複雑そうな表情になったので、それは言わないでおいた。
 で、逃げた後、郊外で車を乗り捨てのだ。
マシンガンとかじゃなかったはずなのに、結構な数の弾痕があったから、あんなのに乗ってちゃ「狙って下さい」って言ってるようなモンだしな。
だから俺が運転して逃げてる間に、に携帯を任せてロマーリオに連絡させて、ヘリで迎えを寄越させた。


「で、今に至るってわけ。」
「――それでご帰還がヘリポートだったわけですか。」
「まあ、呆れてくれるな。6割は不可抗力だぜ?」
「分かってますよ。とディーノさんが無事ならそれでいいです。でも、それならはどうしたんです?不可抗力だってことくらい、分かるはずなんだけど…。」
「そこなんだよな。ヘリに乗るまでは、いつも通りだったんだ。」


 それが、機嫌が急降下して、今じゃめっちゃ拒否。
俺のことなんて全否定。
さすがに凹む。
しかもあんな、表情と感情が噛み合って無い状態だから、こっちは男としても大人としても喧嘩を買う訳にいかないときた。


「おとーさん、娘さんの部屋に入っていいですかー?」
「手を出さなければいいですよ?」


 考えても考えてもさっぱり分からなかったので、とりあえずもう一も二もなく謝り倒すことにした。
後のフォローも考慮して、軽口じみた許可を求めれば、それはあっさりと応じられて。
 「骨は拾って上げますよ」と、にっこり微笑むツナに、顔が引き攣りそうになるのを自覚しながら「さんきゅ」と応えて、俺はの部屋に向かった。
門前払いにならないことを祈っててくれ、と。
何とも情けない一言も添えて。




















 部屋に入ってみれば、はベッドに俯せになって眠っていた。
ほんの少し。
本当に少しだけ睫毛が濡れているのが、眠くて欠伸でもしたときの涙なのか、それとも俺と喧嘩をしたからなのか、俺は少しだけ自惚れてもいいのか、判断がつかない。
 すいよすいよと、多分ふて腐れて寝てるんだろうな。
なんか、こういう姿を見ていると、無条件でこっちが悪いような気がしてならない。
何この地味な罪悪感。
いや、もともと俺が悪かった? のだろう、か?


〜?ちゃ〜ん?起きてくんない?」
「――う゛ー…ん……」


 唸ってるし、この子。
あーあ、女の子ってこんなに可愛かったっけな?
近頃じゃこんな普通の寝顔って縁が無いから、何だか新鮮だ。
 ぷにぷにと、少し紅くなっているのほっぺたを突いてみる。
また少しが唸って、それからうっすらと瞼が開いた。


「起きたかー?」
「……なんで、でぃーのさんが、おるの?」
「仲直りしにきた。」
「――なんで?」


 短時間で熟睡したらしいが、眠そうな瞼を擦りながら呟く。
なんでってな、
お前が怒ってるんじゃん。
俺が悪いのかも知れないけど。
 ま、寝ぼけてるであろうに文句を言っても、多分新たに喧嘩勃発になるだけだから、飲み込んでおく。
けど。


「ん、忘れてくれてるならいい。」
「――忘れてねぇヨ。」
「あら、思い出しちゃったの?」


 まだ、ベッドに俯せたままで、一気に覚醒したらしいの声が急に低くなる。


「しかもなんで乙女の寝室に入ってるのさ、ディーノさんや?」
「でも俺、ちゃんとおとーさんの許可は貰ったぜ?」
「はっ?!ボスの裏切り者!!」


 ぎゃーぎゃー喚くが可愛くて、俺は一つ肩を竦めて笑ってから、ベッドに横たわるに覆い被さった。


「おぎゃー!ディーノさんディーノさん!セクハラ反対!!」
「んー。柔らかいな、。」
「うわーん!パパに言い付けてやるんだからーーー!!」


 じたばたと。
シーツの上で泳ぐようにが逃げようとする。
折り重なるように乗っかってるし、俺との体重差じゃ無駄な抵抗にしか思えないけど、まあ、わざわざ教えてもまた怒られるから。


。」
「――なによぅ?」


 ここから抜け出そうと、ベッドの上で泳ぐ手を捕まえて、の耳元で呟く。
色んな意味で泣きそうなに少し笑ってからかえば、は恨みがましげに答えた。


「ごめんな?」
「何に対して謝ってるの?」
がどうして怒ってるのか、さっぱり分からないことに対して。」


「ディーノさん、私のこと馬鹿にしてる?」と、言い返されることを想定したけど、俺の予想に反した言葉を、は即答した。


「それなら許してあげる。」


 本当は、私も半分くらいは逆切れだから、と。
は罰の悪そうな口調で付け加えて。
俺が上に被さってるから、表情は良く見えなかったけど、きっともう怒ってはいないんだと直感した。


「――許してくれんだ?『なんで?』って聞いたら、撤回するか?」
「ディーノさんは、私がどうして怒ってるのかわからないまま、ただ謝ったわけじゃないから。」


 なるほどね。
それに加えて自分の方にも逆切れなんて要素が入っていたら、何時までも引きずってはいられないのだろう。


「そっか。ありがとな。」
「ん。どういたしまして。」


 いいながら、の上から体を起こす。
ベッドの上で膝立ちになれば、自由になったがごろりと寝返りを打って仰向けになったので、漸く顔を合わせた。
互いに苦笑を浮かべて、俺はを起こしてやろうと手を差し出す。
も素直に俺の手を取ったから、ぐっと力を込めて引いてやった。


。もう一つ、どうして怒ってたか、聞いてもいいか?」


 ぐたりと、ワザと弛緩させてるらしいの身体を力任せに起こしてやりながら聞けば、は非常に渋い顔をして、それから少し押し黙って、最後にちょっと怖い顔で俺の胸を突き飛ばした。


「うぉっ!」


 不意打ちだったのもあって、見事に転げる。
ベッドの上だったので、対した被害はなかったが、精神的な驚愕は寧ろそれからだった。
適度な体温と重量が、俺の腹の上にやってきて。
そう、腹の上。


「ディーノさんが私と一緒に居てもへなちょこなのは、私のことを仲間だと思ってくれてないからだと思ったの。」


 でも、ディーノさんが跳ね馬になるのは仲間じゃなくて部下と一緒のときだって思い出して、と。
は逆切れの理由を話す。
俺の上に馬乗りになって。
えっと。 騎乗位デスカ?
俺はどういう反応をすべき?
二回り近く若い娘さんに、押し倒されちゃったよ。


「あー、うん。ちゃん?」
「なに?」
「乗馬に跳ね馬は向かないと思うぜ?」


 おにーさん、積極的な女の子は大好きだけど、と。
の腰を持ち上げて退かそうとしら、「きーーーーあーーーーーーーーっ!!!!!」って叫ばれた。






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2008/08/25
「おとーさん!ディーノさんに襲われそうになった!」
ディーノ「おとーさん、俺娘さんに押し倒されちゃった。」
ツナ「――二人とも俺をお父さん認定するのやめない?」
な、やり取りとかあったら、最高だと思う。



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