眠れなかったので、バルコニーに出て空を見上げてみた。 さっきまではベッドの中で羊に変わりにジローちゃんを数えていたのだけど、何かちっとも眠くならないし、つまらなくなったので、星でも数えてみようかなんてちょっと乙女心を発動してみようかと思ったけど、ごめんなさい、この途方も無い数を前にして数える気が失せました。 同じもの延々数え続けるなんて、そもそも飽きっぽい私には向いてないのかも。 でも他にすることも無いので、とりあえず首を急角度にして空を見上げ、端から―何処が端かもよく分からないけど―眠り羊の代わりに星を指折り数えていれば、ひらりと視界を影が横切って、私のすぐ傍の欄干へ降り立った。 「おや、マーモンちゃんじゃないのさ。どーしたの?こんな時間に。子どもはもう寝る時間だよ?」 「?その言葉そのまま返すよ?どうしたの?こんな時間に。小娘はもう寝る時間だよ?」 マーモンちゃんに遭遇したので、ちょっとお姉さんぶってみた。 そしたら背中のトイレットペーパーで絞め殺されそうになった。 ので、とりあえずスライディング土下座をしておく。 膝がいてぇ…。 何よこのバイオレンスな元アルコバレーノは。 今はもうすっかり成長して、下手すれば私より年上に見えるんじゃね? というマーモンちゃんは、一瞬前のことなんてさっぱり無かったことにしたかのように、無駄にサワヤカな声で続ける。 「で?何してたのさ?」 「別に?寝られなかったから、眠れるように羊の代わりに星を数えてたの。」 「ふーん。面白いの?」 ま、いっか。 僕には関係ないし、と。 自分で言ったにも関わらず、とてもとても興味なさそうに続けて、マーモンちゃんはバルコニーの欄干からひょいっと飛び降りてきた。 さっきちょっと引っ張り出したらしいトイレットペーパーが、ちょっとだけひらひらしている。 つーかこれって、普通のトイレットペーパーなのかな? 18ロール348円とかの特価のやつでも、念写とか出来るのかな? 気になるところだ。 でも、さっき絞め殺されそうになった手前聞く度胸も無く。 曖昧に笑っていたら、マーモンちゃんは少し呆れたように首をすくめてから続けた。 「別に眠れないなら、無理に寝る必要も無いんじゃない?誰かんとこに行けば、は面白いから誰かしら朝まで構い倒してくれるんじゃないの?」 「マーモンちゃん、『面白い』の一言は余計ですヨ。まあ、私もそう思ってちょっと回ってみたんだけど…」 「だけど?」 ふふふ。 思わずとおいめしちゃうぜ。 「ベル君の部屋に行ったらね、『ザシュ!ドス!メリッ!ぎゃーっ!!!』って音が聞こえたの。自室でスプラッタはどうかと思ったんだけど、ノックしたら即死亡フラグが立ちそうだったんで、スルーしてルッス姐さんのところに行ったら中からスッピーの声が聞こえてね、「う゛お゛ぉいっ!ルッスーリア!!俺の服取るんじゃねぇ!」「いーじゃない減るモンじゃあるまいし。」「減るだろ!服だぞ!」「やぁねぇ、私が興味があるのは服の中身の方よー」「う゛お゛ぉぉぉぉいぃぃぃいっ!やめろぉぉぉぉっ」って声が聞こえたから、邪魔しちゃいけないなって思って、此処もスルーしてきたの。」 私、深海魚だし、BLには理解あると思うんだけど、ルッス姐さんはココロは女の人だし、ちょっとカテゴリー分けするには悩みどころだな、と思いながらスルーしたのは内緒の話だ。 それに、ぶっちゃけ生BLシーンに遭遇するのはちょっと。 そういうのは妄想の中の綺麗な産物に留めておこうと思ったので。 ルッス姐さんとスッピーだし。 「、何か、凄い微妙な顔で遠い眼になってるよ?」 「うん、まあ、その辺は放っといて頂戴よ。で、次にザン様のところに行ったら。」 「まだあるの?」 何かもう話しに飽き飽きしてきたっぽいマーモンちゃんは、あからさまに溜息なんぞつきやがる。 ちょっとー? 自分から話振ってきたんだから、最後まで聞いてくれたまへよ。 ということで、そっぽ向いてあくびなんぞしているマーモンちゃんには気付かないフリをして、サクッと先を話してみた。 「まだあるのよ。とにかくノックをしようとしたら、ドアの向こうから今度は「あんあんやんやん」聞こえてきたの。」 「ああ、真っ最中だったの?」 「はいそこー!そーいうことを露骨に言わないの!てか、何ごく当たり前的な反応してるの?子どもの情操教育にはそういうの良くないんだよ?!深海魚だって妄想の中に留めとくモンだよ?!」 「で?そこもスルーしたわけ?」 「私の話もスルーかよ!そりゃあね!乱入する度胸なんて無いさ!何も聞かなかったことにして帰ってきたよ!大人の怪談を昇るのはまだちょっと早ぇダロ?!」 「怪談じゃなくて階段でしょ。ひっそりと混乱してるね。。」 「いやいや、私は至って平成だよ?」 「平静ね。ま、その判断は正しかったんじゃない?ボスのことだから、ノックなんてしようものなら、次の瞬間には3p…」 「ぎゃーっ!!何言っちゃってんのこの子どもー!!!」 両耳を塞いでしゃがみこむ。 もーもーもー! 何なのよー何なのよー! いくら逆ハー万歳でもそんなのヤダもん! つーか、マーモンちゃんはどうしてそんなことサラっと言えちゃうの? そりゃあ私だって深海魚だけど、そういう妄想もするときもあるけど! それは現実にはありえないからであって! それなのに、それなのに… 何かもうワケわかんないし! 無駄に顔とか熱くなってくるし! 多分紅くなってたりするんじゃないかと思うんだけど! あまりに目の前のマーモンちゃんが平然としすぎてて、まるでこれじゃ私が一人馬鹿みたいだ。 そう思うと、なんか居てもたってもいられなくなって。 「うわーん!!もう私寝るんだからーーーーっ!!!」 「はいはい。おやすみなさい。次は眠れるように頑張って羊数えなよ。」 がちゃこん、と。 盛大に音を立ててバルコニーから部屋に戻った私の背中に、マーモンちゃんの呆れた声がぶつかった。 |
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