「で、どうしてこうなってるんだ?」 倉庫に行って備品を取って来いと、自分は確かにそういったはずだ。 それなのに、どうしてこうなっているのだろうか。 跡部はテニス部専用の備品保管この前に立って、こめかみを引きつらせながらその惨状を見た。 がっちりした錠前がかけられた扉には斧が刺さっている。 見紛うことも無く、樹を切り倒すときに使用する、アレだ。 「スゲー!!斧が刺さってる!」 「錠前を斧で開けようとしたんですか?そんな発想する女の子、ちゃんくらいでしょうね。」 無邪気に飛び跳ねる岳人と、素直に感心する長太郎に一瞥くれてやってから、跡部はもう一度を見る。 小さい体を更に小さくさせたは、とりあえずは反省しているようにも見えた。 「――ごめんなさい。」 一応、やってしまったという自覚はあるらしい。 珍しく文句も口答えも無いの謝罪に、跡部は一つ溜息をついた。 周囲からも「謝ってんだから許してやれよ」という声も聞こえる。 跡部も、面食らったものの、別にそこまで怒っているわけでもない。 しかし、どうしてこうなってしまったかは、激しく気にもなるところで。 「で、どうしてこうなったんだ?怒らねぇから理由を言ってみろ、理由を。」 もう一度同じことを問いかければ、は少し困ったように首を傾げてから、おもむろに答えた。 「ちょっと、険悪な雰囲気に囲まれちゃったんです。」 「――ファンクラブの奴らか?」 「多分。最近は、跡部様たちの写真を撮る気にはならないの?って、言われました。」 「――、今まで撮ったことあるのか?」 「無いですよ?毎日見る顔を写真に撮ったって何の記念にもなりませんし、持っててもご利益があるわけでも無いですし、保管も現像もメモリの整理も面倒くさいですし。」 「「「「「「「――………」」」」」」」 うふふふふ、と、笑うに、氷帝テニス部のレギュラー陣は、若干顔が引きつったのを自覚した。 黄色い悲鳴どころか蛍光色の悲鳴には日々うんざりしているが、こうもあっさりと相手にされないのも、何だか腹立たしい。 日常で珍獣扱いされることに慣れてしまったからだろうか? だが、彼らの地味な表情の変化など、全く気付いた様子も無いは、いかにも榊が溺愛したがるような可愛らしい笑みを浮かべて、続けたのだった。 「だから、『今私、オヤシロ様に憑かれちゃってて、隠し撮りしようとすると一歩後からついてくるオヤシロ様にバレちゃうんです』って言ってお引取り願おうと思ったんです。けど、皆さん「ひぐらしのなく頃に」を知らないようだったので、とりあえず『あはははははははは 』って笑いながらその辺にあった斧を振り上げて、振り下ろしたら、倉庫に当たっちゃって。おかげでファンクラブの人たちは解散してくれたんですけど、斧が倉庫に刺さって取れなくなっちゃったんです…。」 そりゃあ、逃げたくもなるだろう。 『あはははははははは 』と、笑ったの表情は、奇妙なくらいに迫真に迫っていて、完全に眼が逝っていた。 跡部や、学園七不思議大好きっ子の日吉ですらうっかり固まってしまう程にヤバかった。 なのに本人は何も無かったかのように、「それよりどうしてこんなところに斧なんてあったんでしょうね」と、全く的外れに呑気なことを言っている。 そんな中で、忍足だけがごく普通に反応していた。 「何やちゃん、レナの真似上手いやん。次はセーラー服で鉈持って『 嘘だっ!! 』って言ってくれへん?」 「えー、忍足先輩が北条鉄平役やってくれるなら考えてもいいですよー?」 さり気無く出されたリクエストを、さり気無くバラバラ殺人予告で返しながら、はまた可愛らしく笑って答えた。 |
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