Replica * Fantasy







No.12  【 幸せを願えるシアワセ 】




「どうしてこんなに可愛いのかしら?」


生まれたばかりのアレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラムを抱き上げて、は頬擦りせんばかりの勢いで歓声を上げた。
小さなが、更に小さい乳児を抱いてはしゃぐ光景に、夫婦になった自覚も薄いままに親となったラインハルトとヒルダは思わず口許を緩ませる。
少しだけ照れ臭そうに。
 改めてそう言われることで、今更ながらに自分は妻子持ちになったのだと。
ラインハルトに実感が湧いたかどうかは別物としても、彼は自分の子供を抱える幼馴染に何処か複雑そうな笑みを浮かべる。
だがそれは、理由は別にあるとしても、キルヒアイスも同じだった。
 二人の幼馴染の曖昧な笑みに気付かないまま、後にアレク大公と呼ばれることになる乳児を、はその温もりや愛らしい存在感を噛み締めるようにうっとりと抱きしめた。
 時間が経つに連れて、も大人へと成熟しているはずだが、少なくとも表面的には、未だ再会した頃と何ら変わらないままの姿だ。
だが、いつまでも無垢な子供に見えても、その所作には時折女性らしさが滲んでいる。
 それが、近くに乳児を迎えて滲んだ母性なのか、それとも女性としてのごく当然の経過なのか、そしてキルヒアイスという恋人の影響によるものなのかは、キルヒアイス本人にもラインハルトにも分からなかった。
分からなかったが、愛すべき幼馴染が恋人同士という関係に変化したこと、そして相変わらず自覚は無いものの自身が結婚したことで、急にそういったことが身近に迫ったラインハルトは、やや複雑そうにを見遣る。
 当然、もいつかは愛する者のもとへと嫁いで、子供を持つ日が来るのだろう。
彼女は愛らしいとも美しいとも取れる恵まれた容姿のお陰で、引く手も数多だ。
いずれその中から、これと心に決めた男性を紹介される日を思うと、その時には是が非でも相手を一発殴らなくてはならないと、ラインハルトはひっそりと思う。
それが、兄を自負する者の特権でもあるはずだから。
 可愛い妹が自分達以外の男のものになってしまうのも時間の問題かもしれないなと、つい物悲しくなってしまったラインハルトだったが、そんなことは微塵も気付かないは、相変わらずアレクの柔らかい頬に触れながらうっとりと微笑んで、さらりと爆弾発言を投げ込んで来た。


「ねぇジーク。私も赤ちゃんが欲しいな。」


 どんがらがっしゃん。
 どうやらの奇襲に、情けない程無防備だった死角を突かれたのは、自分だけではなかったらしい。
ついでに言うなら、気心も知れているし、キルヒアイスなら殴りやすいというものだ。






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2008/05/06
籠鳥十題の09、10に前後のお話。



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