別に俺はそれくらいどうでもいいと思うので、早く練習をさせて下さい、と。 この数分の不毛な会話の間に何度思ったことか。 「ー、ジャージ届いたんだろ?着て来いよー。」 「そーだよー。俺とお揃いがいいC〜。」 授業で使う体操服姿でボールの準備をしていたに、向日先輩と芥川先輩が絡んでいる。 内容は、聞いての通り、マネージャーなんだからテニス部のジャージを着ろという話で。 激しくどうでもいいじゃないかと突っ込みたくなる俺の前で、二人の先輩は執拗にに絡み、絡まれた本人はきょとんとした表情で首を傾げてから、口を開いた。 「若先輩、これ、準レギュ用のボールです。」 「――ああ。」 俺か、と。 思わず口にしそうになったのは無理も無いと思う。 次の瞬間には柄にも無くグッジョブと思ったのも無理も無いと思う。 さらりと三年の先輩を無視してその背後にいた二年の俺を優先する根性も、中々だと思う。 は下克上の才能があるかもしれない。 だけど、向日先輩と芥川先輩もここで大人しく引き下がるような人ではない。 芥川先輩なんか、そのままシカトで立ち去ろうとするの背中に飛びつくようにのしかかって、正レギュのコートへ向かおうとした足を止めた。 「おぎゃっ!先輩!ジロちゃん先輩!潰れるっ!!」 「だってー、が無視するC〜」 「いや、だからってそれはつぶれるだろ?」 「そう思うなら、止めたらどうですか、向日先輩。」 苦笑している向日先輩の横をすり抜けて、溜息と共に手を伸ばす。 べりっと音がしそうなくらいべったり張り付いた芥川先輩を剥がせば、はふにゃっと笑った。 「若先輩、ありがとうございます。」 不覚にもその笑顔に飲まれそうな気がしたから、あからさまに一つ溜息をついて、一言答える。 「も、早いところ諦めろ。部活なんだし、ジャージくらいで何渋ってるんだ?」 「そーだそーだ!もっと言ってやれ日吉!」 「向日先輩、俺は別に面倒が嫌なだけで、円滑に練習が進められるなら、体操着でも部活のジャージでもどちらでもいいと思います。というか、二人の方が先輩なんですから、後輩に絡むのはやめたらどですか?」 「そーだそーだ、若先輩、もっと言って下さい!」 「も煽るな。この二人よりはお前のほうが大人なんだから、ジャージくらい妥協しろ。何が嫌なんだ?」 コレ以上時間を取られるなら次は放置しようと決めて、そもそもの原因を問い質せば、は非常に微妙な表情を浮かべて言葉に詰まる。 「は、そんなに氷帝のジャージが嫌なのか?」 わざとか素なのか、芥川先輩と向日先輩が、悲しそうに首を傾げて同じことを尋ねる。 は何だか申し訳なさそうな表情になったけど、俺は二人の本性を知っているだけに、何かもううんざりしてきた。 やっぱり放置してさっさと練習するかとも思うが、最初にそれを問いかけたのは俺だから、何だかだけにこの手のかかる先輩を伸しつけるのも気が進まない。 と、思っていたら、が気まずげに口を開く。 「だって、氷帝のジャージって、青と白しかないじゃないですか。私、破滅的に青が似合わないんです。」 「――そんなコト気にしてたの?」 と、言ったのは、もちろん俺じゃない。 そのあと、向日先輩と芥川先輩に「似合うって!」と言われながら無理やりジャージを着せられたを、俺は当然の如く放置した。 最初からこうしとけばよかったかなと思いつつ、何本かサーブを打ってから、振り返った先でぶすくれながらもきちんと仕事をしているは、それほど青が似合わないわけでもなかったけれど。 |
(C) 2005-2009 Replica Fantasy 月城憂. Some Rights Reserved.