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No.07  【 空を喰う雲 】




「何をしてるのさ、こんな所で。」


 と、声をかけられて、は伏せていた眼を開いた。
太陽が、先ほどまでは雲に隠れていたはずなのに、今は顔を照らしていてまぶしい。
多少は自分を覗き込んでくる人物の影で遮られてはいたけど、それでもまぶしいものはまぶしいのだ。
 手で、視界を塞ぐ日光を遮ってみる。
本当は声で誰かなんて分かってたけれど、目を細めて逆光になっているその声の主を見上げれば、彼は影になったその秀麗な表情を理解に苦しむといった様子で顰めていた。


「あー、雲雀さんだー。」


 やる気の無い声で笑って、はやる気のない声を返す。
こんなところで、何をしているのやら。
 呆れた様子を隠しもせずに向ければ、は締まりの無い表情で笑う。
 綺麗に芝生がはられているとはいえ、何時間も飽きずに寝転がって空を見つめている心理を、雲雀は到底理解できなかった。
というか、そもそもどれくらい、がこうして寝転がっているかも知らないのだが。


「雲を、見てたの。空を喰ってる。」
「空を、喰う?」


 最初の言葉に答えているつもりなのか、は寝転がったまま両手を宙に伸ばして言う。
思わず繰り返せば、「そう。今日は快晴じゃなくてね。」と、は続けた。
言葉に反して口調はちっともそれを気にしていない様子で、むしろ楽しそうにも聞こえる。
だから雲雀は、日に焼けちゃうかなぁ、と、更にぼやいたの言葉を、額面通りに受け取ることを早々放棄した。
 だって彼女は、そう言っていたって、地べたに寝転がったまま起き上がる様子が無い。
そしては、空から雲雀に視線を移して、面白そうに続ける。


「雲が、空を、覆い尽くそうとしてたの。」


 喰らい尽くしそうな勢いで、と。
わざわざ単語を切って答えるが、何を含んでいるのかを悟った雲雀は、少し面白そうに笑った。
手にしていたトンファーを匣に戻し、彼はの隣へ座り込む。
それでも起きようとはしないの図太さに呆れつつ、雲雀はの視線を辿るように空を見上げた。
 ゆったりとした速度で、白が青を侵食していく。
その様は、確かに雲が空を食い尽くしているようにも見えて。


「雲雀さんは、間違っても白じゃないと思うけど。」


 喰らい尽くしたいと思ったことは、ある?と。
しっかりと注釈までつけて、は雲雀に問いかける。
 ボンゴレの当代を空にたとえ、そしてそれを守護するリング保持者を天候になぞらえるのは、もはや周知の事実だ。
だから、不穏な話をするのなら、もう少し丁寧にオブラートで隠さなければならないはずなのに。
は今更といった様子で、無邪気に笑いながら言葉を紡ぐ。
何か歌でも歌うような陽気さで問われたそれは、雲雀の口元をゆるく弓なりにしならせた。


「愚問だね。強者が弱者を喰らい尽くすのは、自然の摂理だよ、。」


 状況次第では、聞いている相手次第では、肯定とも否定とも取れる答え。
ある意味で、雲雀はを試したのかもしれない。
また、も雲雀を試したのかもしれない。
自覚が無いふりをして、もしくは本当に自覚が無いのかも知れないけれど。
さりげなく爆弾を放り込むのは、彼女が得意とするところだったから。
 雲雀はが答えるのを待った。
どういう反応をするのか、とても興味があったから。
肯定も否定も、雲雀が欲するものではなかったけれど、そんな反応をまるで読み取ったかのように、は至って淡白に答えた。


「じゃあ私は、常に強者の傍に居なきゃ。独りでいたら、喰らい尽くされちゃうからね。」






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2008/05/06
雲も空も、生きる世界は全部弱肉強食の世界。



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