私に欠けてるもの、何だろう。 何が欠けてるんだろう。 幾つ欠けてるんだろう。 何も判らないけれど、唯一、確かに判ってることは、私には何かが足りてないってことなんだと思う。 そしてそれは、ボスとか武さんとか隼人さんとか、そっちの人には理解しがたいだろうなってこと。 骸さんとか雲雀さんとかでは、近すぎるだろうなってこと。 だから私は、好んで此処に来るんだろうなと、最近自覚するようになった。 ザン様とか、スッピーとか、ヴァリアーのみんな。 こっちに人のところ。 苦しくなったり、恋しくなったり、良く判らないけど、とにかく私がSOSコールをするのは大抵真夜中で、その相手は専らヴァリアーの面々だから。 今日も「今から行ってもいい?」と電話をしたのは、ボンゴレのこっちのお屋敷でもお開きになった頃だった。 起きてる人はいるかもしれないけど、みんなそれぞれの部屋に帰ってる時間帯。 電話越しのルッス姐さんも、少し眠そうな声。 「いいけど、足はある?」と聞かれたから、「歩いていくよ」と答えたら、「んまぁ!駄目よ女の子がこんな時間に!!大体何キロあると思ってるの?!迎えをやるから待ってなさい!!」と叫ばれた。 それが一時間くらい前の話。 「う゛お゛ぉ゛いっ!今度は何なんだぁっ?!」と、超不機嫌にスッピーがひらりと窓から入って来たのがつい先ほどのこと。 あぁ、本当に来てくれたんだー、と。 夜着のままでスッピーに抱きかかえられてバルコニーから出るのにも、それほど時間は掛らなかった。 で、ぶつぶつ文句を言いながらも他に走る車も無い車道を制限速度ぶっちぎりにかっとばしてヴァリアーのお屋敷に行って、門をくぐってスッピーにお礼を言って、ザン様の部屋まで一直線している今日この頃ですよ。 何だかんだで、私が常識ぶっちぎりで夜間来訪したことや、そもそもルッス姐さんに電話してスッピーに迎えに来てもらってる時点で、私の奇行はザン様の耳にも入ってるはずだ。 それでなくても、気配に敏感な暗殺部隊のボスだから、ザン様は部屋に侵入した私のことなんてとうに気付いてるはずだ。 なのに、見向きもしないでベッドに横たわってるのが少し悔しくて、そのままぼすりとザン様の上に倒れこんでやる。 「おい、夜這いならもっと色っぽくやれ。」 「夜這いじゃないもん。だから色っぽくする必要も無いもん。」 薄く掛けていた毛布越しでも、ザン様の厚い胸板が呼吸の度に上下するのが分かった。 あーあ、ザン様ってば、また上半身裸で寝てるのかな?なんて、超どうでもいいことを考える。 「重い。退け。」 「ヤだ。」 「てめぇ、。犯すぞ。」 「あー、うん。それも良いかもね…。」 凄く不機嫌そうなザン様が、うんざりした様子で自分の上に乗った私を転がそうとする。 何だか笑いが込み上げてきて、意地でも落ちるまいと私はザン様にしがみついた。 「おい、冗談だと思ってるなら、本当に犯すぞ。」 「別に、冗談なんて思ってないし、それでも良いよ?好きにしなよー。」 からからと笑ってみる。 けど、今日はその中に『私』はいない感じ。 いつもだったら、ザン様のそーゆー言葉で、私は紅くなったり蒼くなったり忙しいんだろうけど。 今日は何だかそういう反応に結びつかなかった。 もちろん、本当に犯されたいとか、そういうわけじゃないけど。だけど。 「なんか、めちゃくちゃにされたいきぶん。あ、ちがう。めちゃくちゃにしたいのかも。いや…う〜ん……、どっちがどっちっていうより、こわれちゃえばいいのに。みんな。」 あんまり高くない体温。私とはリズムが違う鼓動。 わたしは、見えてるようで見えてない視線を、ザン様に向けた。 視界、歪んでるよー?何で? さすがに、私の様子が普段と違うことに気付いてはいたものの、此処まで無気力になっているとは思わなかったらしいザン様は、自分の体ごと私の体を起こした。 「おい、。」 「せかいなんて、ほろびちゃえばいいのに。」 「聞け、。」 「――なぁに?」 「何があった?」 まるで、強引なキスを奪う動作だ、と。 思ったのは多分、思考回路が腐れてるからだと思う。 いい大人は、こんな子供なんて相手しないし。 そんなわけで、顎を掬われて、強引にザン様のほうへ向かされた私は、この距離で視線を逸らすことも出来ずにヴァリアーのボスと睨み合うなめになって。 別に、ザン様は私のことを気遣ったりしない。 ただ、変になった私がいると、女の人を呼ぶことも出来ないし、自分が寝ることも出来ないし、だから優しくしてくれるんだよ、と。 そう思っていれば、気分が楽だった。 だから私は、へちょりとザン様に抱きつくように、その体に顔を伏せる。 私の顎を捉えていた手は、あっけないほどあっさりと放された。 もうちょっと、捕まえていて欲しかったのに。 「たりないの。みつからないの。さがしても、さがしても、さがしても。」 それが見つからないと、ボンゴレのボスのところには帰れないんじゃないかって、そんな確信めいた予感。 別に、そんなものいらないと思いながらもそれを捨ててしまったら、私も同じ様に棄てられてしまうんじゃないかって、そんな脅迫めいた確信。 「ねえ、ザンさま。だれかこわしてくれないかな?」 「俺を誘うなら、もう少し色気を身につけてから来るんだな。」 そうすれば少しは楽になれそうな気がしたのに、優しいザン様は意地悪な応えしかくれなくて。 でも、ちゃんとわかるから。 それくらいはわかるから、何だか口元が緩んだ。 「くだらねぇこと言ってねぇで、もう寝ろ。」 「はぁい。」 放り出されるかと思ったけど、ザン様は私を抱えたまままたベッドに逆戻りしたから、だから。 あんなにくすぶっていた感情が嘘みたいに消えて、私はそのまま睡魔の海に溺れていった。 |
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