時々、酷く扱いづらい感情が首をもたげる。 同じ感情を、彼も抱えたことがあったのだろうかと、考える。 「ラインハルト!」 ほら、また。 はラインハルトとキルヒアイスが共に居るときには、必ずラインハルトの方を先に呼ぶ。 それは、無意識的にキルヒアイスに倣っているだけなのかもしれないけれど。 最近はそれがとても気に入らない。 最初から、の『兄』だったのは、自分の方なのに。 それとも、『兄』だから、なのだろうか。 ラインハルトに飛びつくようにして、は彼のすべからかな頬にキスをする。 そして、の求めに応じて、ラインハルトもそのなめらかな頬にキスを返すのだ。 それは今に始まったことではないし、何もラインハルトだけにされるものではない。 ある種の、習慣化したものなのだ。 だけど、それに苛立ちを感じ始めたのは、一体いつの頃からだっただろうか。 キルヒアイスとラインハルト。 にとって、より比重が高いのがどちらかなんて、今までは考えたことも無かったというのに。 「ジーク!」 鈴のような声が、今度はキルヒアイスを呼んで、が今度は小さな歩幅で自分のほうへ駆けて来る。 と、今までの燻ったような感情の波が引いて、キルヒアイスの顔にも自然と笑みが浮かぶ。 だけどそれは、の口から彼の名前が出てくるまでの、ほんの僅かな間だけだった。 「すごくすごく心配したのよ!ジークもラインハルトも、本当に無事でよかった!」 「――僕も、をずっと心配していたよ。」 抱きついてきた愛しい存在を、優しく受け止める。 ああ、こんなに、も。 が両手を伸ばしてくる。 帰還のときのそれは、おかえりのキスをしたいという意思表示だ。 彼女の望みどおり、その身長差を埋めて屈んでやれば、は先ほどラインハルトにしたようにキルヒアイスの頬に唇を押し当てる。 「おかえりなさい、ジーク。」 そして、同じそれを求める動作を、キルヒアイスにも向けて。 だから、キルヒアイスはふっと首を擡げた独占欲を込めて、の求めに応じた。 その桜色の唇に、自分のそれを押し当てる。 少し濡れた、柔らかい感触。 それは、それ程長い時間ではなかったけれど、の思考回路を遮断するには充分すぎるもので。 唇を離してから彼女を見れば、は眼をまん丸に見開いたまま固まってしまっている。 それが、あんまり可愛らしかったものだから、キルヒアイスは笑いを噛み殺して、飄々と答えた。 「ただいま、。」 我に返ったは、茫然としながらも僅かに頬を紅く染めてキルヒアイスを見上げている。 ああ、きみとぼくだけで終われたら、良かった、の、だろうか? |
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