普通に考えるなら、記憶を改竄されて、脳を弄くられて、体をいいように改造されたなんて、人間の存言を完膚なきまでに踏み躙る行為だ。 もし自分がそんなことになったら、使い古された表現だが、死んだって許さないだろう。 だから俺は、何も言わずに飄々としているが理解できない。 「お前、何とも思わないのか?。」 「だって、何も覚えてないんだもん。覚えてないのに実感なんて湧くわけ無いし、実感が湧かないのに思うも何も無いじゃない。」 「それすらも、やつらの思惑の内なんだぞ?」 「だからどうしろっての?表立ってはボンゴレが全部処刑したのに、いつまでも無意味に恨めって言うの?そんなことしても、私が思い出すことは無いだろうし、思い出しても無かったことになるわけじゃないじゃない。」 苛立ったように言い返されて、返す言葉が見つけられなかった。 代わりに一つ、舌打ちをして、そして煙草に火をつける。 何も考えていないようでいて、はちゃんと考えている。 許したわけじゃないけど、引きずったところで無意味であることも、自分の手を汚さなくてもちゃんと制裁が下っていることも、全部分かっているのだ。 分かっていないのは、自分の身に降りかかった理不尽な事実だけ。 本人が言うように、覚えて無くても、過去は全て存在するし、消えない。 記憶は消せても、痕跡は残っているのだから。 神経を刺激するために打った針の跡も、薬で変色した皮膚も、切り開いて閉じた痕も。 酷い状態で保護されたあの時のの姿を、たとえ本人が忘れても俺は絶対に忘れないし、許さない。 「隼人さん、怖い顔してるよ?私は隼人さんがそんなに怒る程酷かった?」 冗談めかして笑うの言葉に、咄嗟に否定も肯定も出来なかった。 沈黙こそが、が一番嫌がる答えだと知っていたのに。 応えられなかった俺の顔を見上げて、はまた少し笑う。 笑って、「本当に大丈夫だよ?」と、一言。 見ていられなくて思わずを抱き寄せた。 「隼人さんヤニくさーい!」 「うっせぇ、黙れよ。」 「変なの。大丈夫だって言ってるのに。」 「だったらお前、何で泣いてるんだよ?」 「泣いてる?私?」 さっきまでくすくす笑って俺の反応を面白がっていたのに、その事実を突きつけてやると、は困惑したように自分の頬に触れて、「本当だ」と、濡れた手を眺める。 「あれぇ…?あれあれ?」 まるでヒトゴトのように、は自分が泣いているということを、理解出来ていない様子で。 つまり、「平気」だと言う自分と、「泣いて」いる自分が、うまく噛みあっていないということなんだろう。 どうせ言っても聞きゃしねぇから、俺はまた少しを抱き寄せて、その酷い顔を拭ってやった。 「無理に泣き止まなくていいから、泣かせといてやれよ。」 そして涙を拭ったハンカチをの手に握らせれば、は雰囲気も可愛げも無ければ空気を読む気もまったく無い様子でふにゃりと笑って。 「隼人さんってば、キザーっ!」 泣き顔のまま笑うから、思わず煙草の煙を吹きかけておいた。 噎せ返って泣いた分は、絶対ぇ慰めねぇからな。 |
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