叶うはずもない願いは絶望の色を強めるだけだ、しかし、 「――しかし、総てが容易に叶ってしまうなら、そもそも『絶望』という言葉など存在しないだろうし、それは『希望』という言葉の存在意義さえ無くしてしまうだろう。」 と。 自分は思うのだが。 『叶うはずもない願い』は、確かに『絶望の色を強めるだけ』だ。 キルヒアイスは彼の膝の上に頭を乗せて眠っているの髪を一筋すくって、それが滑り落ちる様を見ていた。 キルヒアイスは決して過分な望みを持ったことは無いが、その言葉を身を持って知っている。 彼は一つため息をついて、読んでいた本を閉じた。 彼が借りたその本は、もとはが抱えていたもので、コールテンの布地を貼って金箔を押した、豪奢な装丁の割に薄っぺらい絵本だった。 しかし、無邪気な挿絵と薄さの割に、中々考えさせられる深い内容のものであって、最後はまるで読み手に「考えろ」と言っているかのような、そんな言葉で終わっている。 だからキルヒアイスはそう答えたのだが、彼がぽつりと答えた声に、その膝にもたれてソファに寝そべっていたは、そのままの体勢で応えた。 「だからこそ、叶うと叶わざるとに関わらず、『望み』は常にそこにある。それが『希望』なのか、『絶望』なのか、分からないまま。」 そしてはころりと寝返りをうつ。 所謂ひざ枕という状態でキルヒアイスに甘えていたは、仰向けになると自分を見下ろすキルヒアイスに向かってにっこりと微笑んだ。 キルヒアイスは音を立てて閉じた本を脇に置いてから、の髪に触れて笑みを返す。 「眠っているのかと思ったよ、。」 「うん。ジークの声で、目が覚めた。」 顔にかかる髪を優しく除けてもらえば、はくすぐったそうに目を細める。 猫の様に眼を拭って起き上がろうとする銀と白と少しの紅で構成された少女を、キルヒアイスは笑って引き止めた。 もう少し、自分の腕の中に留めて起きたかったから。 「ジーク、足、痛くない?重くない?」 しっかりとそこに納まりながら、しかしは少し気にしているようで。 「大丈夫だよ」と答えれば、彼女は少し間を置いてから僅かに眉をひそめる。 「本当に?人間の頭って、結構重いのよ?」 「それじゃあ、僕がに同じことをしてもらってるときも、実は結構重かったのかな?」 笑いを堪えるように問い返せば、は「しまった」とばかりに視線を泳がせて。 「重いことは重いけど、でも大丈夫。」 「そうだね。僕も、同じだよ。」 つまり、重くなどないから、キルヒアイスとしてはもう少し甘えていて欲しいのだ。 基本的には、自分の言葉は自分でしてしまうし、周囲に気を使って自分のことを優先してほしいと言うことなど無いから。 というのは、実は建前だけれども。 本当のところは、ただ、もう少しこの愛しい存在を自分の五感で感じていたいだけなのだ。 せっかく叶った願いだから。 |
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