生まれたばかりのアレクは可愛い。 ヒルダも優しくで大好きだし、ラインハルトに至っては今更言うまでのことは無い。 だけど、時々辛い。 は考える。 どうして辛いのか。 周囲の人間は、それはがラインハルトを愛しているからだと言う。 無論、はラインハルトを愛している。 ただし、同じレベルで愛しているのは、何もラインハルト一人だけではないのだ。 そして、本当のところを言えば、辛いのは幸せそうなラインハルトやヒルダを見たときではないのだ。 彼らを見て、少し胸が痞えるような感じを、確かに覚えるけれど、一番辛いのは、そういうときに自分の隣に立つ、キルヒアイスと眼が合ったとき。 彼は優しいから、が求めれば必ずそれに応じてくれる。 寂しくて、どこか悲しくて、きっと同じ感情を抱えているキルヒアイスに、その温もりを求めた。 それは誰かの代わりなどでは決して無く。 もちろん利用したわけでもない。 を抱きしめてくれる大人は沢山いるけれど、ロイエンタールでもミッターマイヤーでもファーレンハイトでもミュラーでもビッテンフェルトでも駄目なのだ。 それは、キルヒアイスでなくてはいけないから。 だけどそれが何故なのか、は頑なにその理由を感情の霧の彼方へと押しやっていた。 選ぶことが罪悪にも思えたし、ラインハルトがヒルダを選んだから、自分がキルヒアイスを選んだわけでは無い。 そう思いたかったし、第一、がキルヒアイスを選んだからといって、キルヒアイスが自分を選ばなければいけない理由など無いのだと、はごく当然のように思っていたから。 見たくない、見たくない、聞きたくない。 今はまだ、何にも気付いてしまいたくない。 だから。 は自分を抱きしめてくれるキルヒアイスの胸に、顔を伏せる。 彼が今、どんな表情をして自分を抱きしめているのか見るのが怖かったし、そんなずるいやりようの自分の表情も、見られたくなかった。 「――ジーク、ごめんね。」 「謝らないで、。きっと僕も、善意だけじゃないから。」 |
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