「おー、ミルキ、偉いぞー。ちゃんと食後のマラソンしてきたかー!」 「…オレ…もう、吐きそ……」 「トイレならあっちだからなー!」 何かと脂肪の付きやすい体質の弟、ミルキに爽やかかつ残酷な笑みを持って出迎えたは、ヤケになって投げる俺の針を楽々受け止めながら応じていた。 「イルミ君よ、何だか段々殺気が強くなってきてね?」 「気のせいじゃない?」 気のせいじゃないだろうけど。 言葉の割りにひょいひょい俺の攻撃を買わずは嘘泣きでもしそうな勢いでわざとらしく天を仰いだ。 「うわぁ、何てアグレッシブな弟なんだ。6年くらい前までは可愛い4歳児だったのに。年月の流れって超残酷―!ちゃん、お兄ちゃん今日は何だか絶体絶命っぽいーっ!!」 生きて会える日が来るか心配になってきたー!と。 やかましいくらいに騒ぎ立てるに、俺はまたかと思う。 が『』という、どうやら妹らしい名前を呼ぶたびに、俺は何だか苛々するのを抑えられず。 暗殺者はなるべく感情を殺さないといけないってじいちゃんや父さんに言われてるから、そういうところが未熟なんだろうなと思うけど、でもそれならはどうなるんだ。 こんなにやかましいくらいぎゃーぎゃー感情を出してるのに、どうして敵わないんだよ。 それでも、最近は勝てなくても何発か攻撃を入れられるようにはなってきたから、膨大な針に紛れて一瞬で距離をつめると、全身全霊を込めてその頭を殴っておいた。 殺気を隠そうともしなかったから、避けられるかと思ったけど、予想に反してそれは、あっさりとの頭に決まって。 内心びっくりしたけど、それは隠しておいた。 「、今日も『、』ってうるさい。この6年、何で毎日言ってる。いい加減にしてよ。一体一日に俺が何回その名前聞いてんと思ってんの?」 「え〜、平均100回くらい?」 「ハズレ。157回だよ。」 「うっそ?!おれそんなにちゃんちゃん言ってた?」 と、でも、自覚のある発言が出てくれば、まだ救いようもあるのだけど。 でも根っからのシスコンだと豪語してならないは、もう救いようが無かった。 「そっか。うん、しょうがない。だって俺、ちゃん命だから。」 もう駄目だな、この男。 俺はに殴った一発を最後に今日の訓練を終えることにした。 何だか、とても乗らない。 いつものことながら、が『』の話をするのが、最近は本当にうっとおしかった。 「ねえ」 「んー、何だい、イルミ君よ。」 「何でそんな、『』を気にするの?」 『』は、の『妹』らしい。 俺が庭でを拾ったのが6年前で、そのときにはは流星街にいたらしい。 当時のは即行で流星街に行くと言い張ったらしいが、念も何も出来ない一般人だったから、今言っても死ぬだけだろってことで、とりあえずゾルディックで修行しながらを探し続けている。 未だ見つからないけど、はあきらめない。 「流星街だよ?絶対もう死んでる。」 「いやいや、流星街だよ?トリップの法則で言えば、ちゃんは蜘蛛と一緒なはずだから、死ぬわけが無い。」 「は?クモ?」 「いやいやこっちの話。とにかく、俺はちゃんと会えるはず。」 もう病気だ、は。と、思ったけど。 言ってもムダだし。 どうしてそんなに気になるのか、とにかく俺は苛々するんだよ。 『』という名前が、嫌いだ。 会ったことなんて無いけど、会ったってきっと合わないだろうし、会いたいとも思わない。 ああ、だから。 「ねえ、。は『』に拘ってるの?『妹』に拘ってるの?なんでそんなに『他人』に拘るの?」 俺は、俺の疑問を口にしただけなのに。は一瞬驚いたように、いや、違うかな…。 意外そうに?とにかく俺をまじまじと見てくるから、余計に腹が立って睨み返してやった。 そしたら、こともあろうに、は俺を昔みたいに抱きあげて。 「うん、イルミ。ゾルディック家の長男からすれば、理解できなくても無理ないけど、ひとはひとりでは生きていけないからね。特に、俺や憂は、寄り添ってないと生きていけないんだ。」 そういう風に、出来ているからと。 はちょっと深みを増した目で俺を見てから、頭をくしゃりと撫でてきた。 子供扱いが気に入らない。 その手の温度が気に入らない。 俺は振り払うようにの腕から飛び降りたけど、結局のところは、『』が現れたらがゾルディックから離れてどこかへ行ってしまうような気がしたから、苛々していたんだ。 |
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