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No.27  【 寄りかかってくればいい、一人分なら空いているから 】




「駄目よ、ラインハルト。これからはヒルダ様を最優先にしなきゃ。私を送っていく時間があるのなら、顔を見せるかヴィジホンをかけてあげなきゃ。」
「何故だ?今日会ったし、明日も会う。」
「それは、公務でね。そういうのと、プライベートは別で考えなきゃ。」


 の言葉に真顔で返したラインハルトに、彼女は困惑したように笑った。
どうも、宇宙を統べるほどの実力を持った彼女の幼馴染は、ある限定された一面に対しては酷く疎いようである。
 つまり、ラインハルトととキルヒアイスと。
この中で最も恋愛感が疎いラインハルトが最も早く結婚までこぎつけたわけだ。
 がキルヒアイスをちらりと見上げれば、彼も同じように困惑したように微笑を浮かべている。
何となく、此処は自分が言うべきなのだろうと思ったは、根気良くラインハルトに説明してやった。


「ねぇ、ラインハルト。結婚するのでしょう?奥さん一人を大事に出来ない人我が、帝国中すべての人間を大事に出来ると思う?」


 何のかんのと丸め込まれたラインハルトは、結局「そんなものなのか?」という一言を残して、納得したようである。
その背中を見送ったは、横に立つ人物にも同じように声をかけた。


「ねぇジーク。ジークも帰っていいのよ?私、一人でも大丈夫だから。」


 ラインハルトを見送った後の、少し寂しげな微笑。
だけど、そうは見えないように装っているのが見て取れたキルヒアイスは、同様に少し笑って応える。


にも、帰りに顔を見せたくなるような大事な人が出来たのかい?」
「違うわ。私のことじゃなくて、ジークのことよ。いつまでも私のお守りばっかりしていたら、ラインハルトみたいに恋人を見つけれないでしょう?」


 それが、互いにどれ程の痛みを伴う言葉であるか、は自覚していない。
自分の言葉で、傷ついていることも、傷つけていることも、認識できていない。
それが分かっているから、キルヒアイスは静かに微笑んだ。


「僕は、いいんだよ。。」


 その言葉に、どれ程の想いが込められていたことか。
だけどは、当然それにも気付いていないから。
だから、その言葉に安堵したことにも気付かずに笑って応えられるのだ。


「赤毛ののっぽさんを慕う女性が聞いたら、きっと悲しむわね。」
「君も、悲しんでくれるかい?


 からかうように問い返せば、は同様に笑って返そうとしたが、あまり上手くいかなかった。今まで眼を逸らしていた何かに直面させられたような、そんな隙間に刺し込まれるような、鈍い痛みが呼吸を一瞬止める。


「――。君が、僕を突き放す必要なんて無いんだ。寂しければ、甘えればいい。」


 自分が投げかけた言葉が、ささやかな時限爆弾であったことをさとったキルヒアイスは、そう言って両手を広げる。
は誤魔化すように少し笑って、そして俯いて、それから咽喉の奥を僅かに引きつらせて嗚咽を漏らした。
 だけど、それでもその腕に委ねることに抵抗があるのか、その場から動かない。
だからキルヒアイスの方が一歩ずつ近付いていく。
かつりと、軍靴を鳴らせて。
まるで、彼女のテリトリーに入るための、許しを請うように。
がキルヒアイスを拒否するのなら、彼女はその足を一歩下げればいい。
キルヒアイスと同じように、小さなヒールの踵を鳴らせて。
 だが、が拒まなかったから、キルヒアイスはその小さな体をやさしく自分の腕の中に閉じ込めた。
そして、まるで暗示でもかけるように、甘い言葉を繰り返す。


、甘えればいい。頼ればいい。僕は、もう何処へも行かないよ。」


 そうして依存症にでもなってくれれば、の自分ひとりのものに出来るかも知れないなどと、思ってしまったから。
だから。


「寄りかかってくればいい。一人分なら、空いているから。」


 のための場所だよ、と。
付け加えることも忘れずに。
 







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2009/04/10 



 
 

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