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No.24  【 泣き喚く君を前にして、僕は一欠片の言葉さえ持たない 】




「泣き叫んで謝れ。這い蹲って血反吐を吐きながら、今まで食い物にしてきた子供達に詫びろ。今すぐ殺してやるから、死んで贖え。」


 ああ、やはり、と。
の口から飛び出した言葉に、その無邪気さを知る者は静かに眼を閉じた。
 綱吉率いるボンゴレファミリーがを引き取ってから今まで、がそんなことを言ったことは無かった。
彼女は自分が覚えていないからと、ただそれだけで、自分の身に降りかかった悪夢を、無かったことにしていたのに。
彼らは出て来てしまった。
が一番怒る言葉を、わざわざ携えて。




「さあ、。君の勤めを果たすがいい。」
「私の勤め?ああ。」


 突然眼の前に現れた男に、と呼ばれたは静かに微笑んだ。
そう命じられることに、その名を呼ばれることに、何の抵抗も疑問も感じていないように。
 そしては、微笑んで彼の右目にヘアピンを付き込んだ。


「私の仕事、私の存在意義。それは、滅ぼすこと。」


 酷く楽しそうには声を立てて笑う。


「憎きものを滅ぼすこと。殺すこと。血祭りにあげて、跡形もなく存在を消してしまうこと。」


 酷く楽しそうに、は歌うように続ける。
対して、眼を潰された男は耳障りな絶叫を上げて床をのたうちまわった。
飾り付けられたテーブルにぶつかり、そのクロスを立ち上がろうとして、また体勢を崩して倒れ込む。
手を付けられていない皿が中身をぶちまけながら床と非友好的な接触を重ねた。


…っ、貴様…小娘が………っ!」


 男が煮えたぎる憎悪をに向ける。
さすがに、わざわざ乗り込んでくるくらいだから、銃くらいの装備はしているらしく、懐から取り出し、に照準を合わせた。
 だが、続く銃声が伴ったのはの悲鳴と死体ではなく、彼自身の声で。


「ぐあっ!」


 男より遥かに速い動作でリボーンが銃を抜き、彼の手から銃を弾き飛ばす。
リボーンは冷ややかに侵入者をつまみ出すよう、その視線を警備に向けたが、はリボーンにさえ、口を挟む隙を与えなかった。


「だめよ、まだ。まだだめ。まだ連れて行かないで。」


 そしてはヒールの踵を鳴らして男に近付き、容赦も何もあったものじゃない蹴りを、その顔に一発叩きこんだ。
だが、耳障りな筈の悲鳴は聞こえることも無く、代わりに周囲の耳を汚したのは歯が折れた音で。
 は彼の口を目掛けて足を突き出し、そしてそのまま黙らせたのだ。
長いドレスの裾から覗く、頼りない華奢なブーツが、まさかこんな拷問具になるとは誰も思いもしなかっただろう。
は爪先をブーツごと男の口に突っ込んだまま、またにっこりと微笑み、顔を近付ける。


「残念だったねぇ。私の前に現れなければ、こんなめに合わなかったのにねぇ。」


 その、少し間延びしたような口調は、まるで子供が酷く興味を引かれた物を見つけた時のような無邪気さをもって男に叩き付けられる。
彼との間には、掴みかかればひとひねりで押さえ込むことが出来るだろう体格差があるのに、その無邪気さこそが、に掴みかかってしまえと思うことさえ許さない程恐怖感をあおっているのだ。
 一時的な退行を示しているは、子供がどれほど無邪気で残酷であるかを示しているようで。
大人になれない彼女は、子供らしく容赦を知らず、自分の中の厳格なルールによって、目の前の男の前に立ちはだかった。


「私ねぇ、何も覚えて無いの。」
「――……っ」
「私は、なんかじゃないから。アンタなんか知らない。アンタの憎悪も知らない。エストラーネオ・ファミリーなんてもっと知らない。」


 でも、アンタたちが私にしたことは、知ってるから。
私たちは、赦さない、と。


「憎きものは、滅ぼせばいいんでしょう?殺してしまえばいいんでしょう?血祭りにあげて、跡形もなく存在を消してしまえばいいんでしょう?アンタたちが、私をそう造ったんでしょう?」


憂はけたけたと笑う。
ちっとも笑っていない目で、相手を突き刺しながら。


「残念だったねぇ。本当に残念だぁ。このまま私の前に現れなかったら、生き延びれたのにねぇ。せっかくボスが作ってくれたドレスも、汚れなくて済んだのに。」


 残念残念、本当に残念。
 あはははは、と。
渇いた笑い声。
くぐもった鳴咽。
白いフリルのドレス、と、引き摺り下ろされたテーブルクロスに滲む、紅い体液。
さらりとの髪が揺れる毎に、男の指が一本ずつ砕けていく。


「ねぇ、私、本当はこんなことしたくないんだよ?でも、私の前に現れちゃったから、しょうがないよね。」


 それは、真実本心からの言葉。
 自分は覚えていないから。
制裁はすでに、ボンゴレが下したのだから。
 だからは、わざわざ探してまで復讐するなど、無益なことはしなかった。
 だけど、この手が届く範囲なら。
例え自分が覚えていなくても。
制裁を下す権利があるから。
 何より、脳髄の中心が、疼くように、警鐘を鳴らしていたから。


「泣き叫んで謝れ。這い蹲って血反吐を吐きながら、今まで食い物にしてきた子供達に詫びろ。今すぐ殺してやるから、死んで贖え。」


 だからは、もう一度同じ言葉を繰り返す。
自分と、自分と同じ境遇の果てに死んでいったであろう、顔も知らないどうほうたちのために。
だからは、冷徹に残酷に、涙を流さずに泣き叫ぶ。
自分が負った傷の深さを知らないまま。
 他の誰にも、一欠片も言葉をかける余地を与えない程、無邪気で優しい殺意を剥き出しにして。






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2010/04/17
ぶっちゃけてしまえば、長い一日はこんなお話に辿りつく予定でした(苦笑)。
 



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