Replica * Fantasy







No.20  【 鏡に映る姿に抱くのはどうしようもない吐き気だけ 】




 部屋に入るとは、薄いキャミソールと下着のように短いホットパンツ一枚の格好で、姿見の前で熱心に自分の体を検分していた。
両手を広げてみたり、くるくる回ったり。
今一つ色気の足りないポーズで。
 一応ノックもしましたけどね、聞こえなかったのか、聞いていなかったのか、無反応だったので勝手に入らせてもらいましたよ。
だけど、そのどちらでもなかったようで、は僕が入ってきたことにちゃんと気付いていた。
、気付いてるならちゃんと返事をしなさい、と。
そう口を開く前に、馬鹿みたいに明るい声で、が先に口を開く。
視線を鏡に向けたままで。


「ね、骸さん。私の体、ちょーグロい。」
「――なんですか、やぶからぼうに。」


 鏡越しに映ったの姿を見れば、体の至るところに赤い斑点のような痕が残っている。
それは、直径が5ミリ程度の小さなものばかりだったけど、その中心はどれも赤黒くて、しかも大抵は二つか三つくらいで1センチ間隔に、不自然なくらいに綺麗に揃ったものだった。
足首に、脹脛に、太腿に、手首に、肘に、肩に、首に、そして、こめかみにも。
 まるで左右対称に模様をつけるが如く、その小さな楔を打った痕は、まだ生々しく残っている。


「ほら、こんなトコにも。腹と胸にもあったから、背中にもあるんじゃないかなぁ…。」


 嫌がる様子も無く、は嗤って振り向く。
べろんと、キャミソールを胸が見えそうな位置までたくし上げて、「ほらね」とそれを見せられれば、わき腹に三ツ星が、左胸を形に添って掬い上げるように五つ星の痕跡があった。
 というかですね、
ノーブラですか、ノーブラですね。
それなのにそんな無防備にキャミソール一枚の姿で男を部屋に入れるなんて非常識です。
全く、普段は僕がちょっとスキンシップした程度でセクハラだのロリコンだの随分言ってくれるというのに、どうしてこういうときは自分の行動に無頓着なんですか。


、ちゃんと服着なさい。女の子がそういうものを見せびらかすものじゃありませんよ。」
「えー、骸さん。そーゆー時は優しく自分のジャケットをかけてあげるとかしようよ。いつも元気印のちゃんが珍しくちょっと凹んでるんだよ?」
「残念ですが、僕はこのシャツ一枚しか着ていませんからね。半裸になった僕にシャツをかけられながら慰めてもらいたいというのなら、ベッドまでお付き合いしなすが?」
「嘘ですごめんなさいちょっと夢小説ヒロインを気取りたくなっただけなんです」


 あんまりが予想通りの行動を取るので、思わず口元が緩めば、一瞬にして三歩ほどの距離を取ったも、僕につられるように笑って、そして少し肩をすくめた。


「骸さん、知ってた?」
「素っ裸で水槽に浮かんでた君を助けたのは僕ですよ?」
「骸さんと、雲雀さんでしょ?じゃあ、雲雀さんも知ってるのかぁ…。ねぇ骸さん。これって、何の痕?」


 雲雀恭弥だけで無く、ボンゴレの幹部達は全員知ってますけどね、とは、言わなかった。
が気にし始めるより早く、目ざとい者は足や手に着いた実験の痕跡に気付いている。
 もう一度は髪をかきあげて、鏡を覗き込む。
こめかみのそれを確認している姿に、一瞬答えるべきかを迷って、結局僕はその答えを口にした。
 多分が、嫌な表情を浮かべることを充分予想した上で。


「針ですよ。」
「針?」
「そう、針です。献血用の太い針を見たことがあるでしょう?あれと同じようなものを刺して、養分や薬物を投与したり、神経を刺激した実験の痕です。」


 うわぁ…と。
予想通りに表情を変えたに、奇妙な満足感を覚えそうになって、僕は彼女から視線を外した。
正確には、の背後にある、僕の姿をも映した鏡から。


「骸さんにもあるの?」
「昔、ありました。大丈夫、時間が経てば、そのうち消えてしまいます。」


 免罪符にはならないだろう。
だけど僕の言葉を聴いた表情が、ほっとしたように緩んだから。






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2009/10/10
さて、その姿に吐き気を覚えたのは、どちら?



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