「愛って、なにかしら?」 不意にポツリと呟いたの言葉に、ぎょっとしたラインハルトとキルヒアイスは同時に手を止めて彼女を見やる。 二人の視線を受けたは、彷徨わせていた自分の視線を向けて、もう一度同じことを呟いた。 「ねぇ、『愛』って、どんなものかしら?」 分からないの、と。 笑い飛ばすには些か深刻すぎる声色では呟く。 困ったように首を傾げて。 だからラインハルトとキルヒアイスは、止めた手をそのままに、互いに顔を見合わせてからと同じように僅かに首を傾げた。 「改めて問われてみると、中々返答し辛いテーマですね。」 「そうだな。『愛』、か。『美しいもの』、か?」 答えを期待しない問いかけのように、ラインハルトが宙を見上げて呟けば、はますます首を傾げる。 「愛は、美しいの?それとも、美しいものが、愛なの?」 「、『愛』は、多分そうやって厳密に定義付けられるものではないんじゃないかな?」 苦笑して、「上手く説明できないけれど」と断ってから、キルヒアイスは続ける。 彼が思うに、『愛』というものは、いつもすぐそこにあって、なんにでも姿を変える気まぐれなものなのだ。 ただ、『想う』ものであり、『育む』ものであり、時には『憎悪』にも変化することもあれば、『決意』させるものにもなる。 たった一人の『愛』が世界に戦いをもたらすこともあれば、同じようにたった一つの『愛』が世界を救うこともあるのかも知れない。 何となく彼の言いたいことを悟ったラインハルトは、なるほど、といわんばかりに一つ頷いてから続けた。 「そうだな。『愛』とは、そういうものなのかもしれない。の『愛』は、どこにある?」 美貌の覇者が問いかければ、美貌の姫君は少しはにかんだように笑って、そして小さな白い手を自分の胸に当てて眼を伏せた。 長い睫毛が白い顔に黒い影を落とす。 「私の此処にも、『愛』があるかしら?」 それは、ヴァルハラの神に愛された少女が、彼らに懇願するような、祈る姿にも似た動作で。 そしてはただ柔らかく、ただ静かに呟く。 「どれがあいかしら?どれだけのちからがあるかしら?」 幼子の、素朴すぎる問いかけのようなその言葉に、ラインハルトとキルヒアイスは微笑むことは出来ても答えることは出来なかった。 だけどは、答えを求めていたわけではなかったから。 伏せていた眼をゆるりと開くと、しっかりとその紅い眼に二人の幼馴染の姿を映して、そして微笑んだ。 「ラインハルト、ジーク。」 なんだい?と。視線で答えれば、は無邪気に笑って、祈るように小さな胸いっぱいに溢れた感情を、ただ一言、言葉にした。 「あいしてるわ」 |
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