今日は、朝から天気が悪い。 悪いどころか、大荒れの大雨だ。 当然、雷も容赦なく暗い空を裂き、その轟音を持って人々を怯ませている。 ついには停電まで起きてしまうと、もうには『どうぞ大いにパニックに陥って下さい』と言われたようなものだ。 「『兇事よ 消えうせろ』という意味だそうですよ。」 「ホクスポクス・フィジブス、ですか。舌を噛んじゃいそうですね……」 その日、たまたま最初にと遭遇したウルリッヒ・ケスラーは、運が悪かったとしかいえないだろう。 マリーカとの約束の前に一仕事終えようと元帥府を訪れた彼は、例によって例の如く、雷によって腰抜けにされたに、捕まってしまったのである。 それが、ビッテンフェルトなど、年の差も甚だしい恋人達をからかうためにものであれば、ケスラーも相手にせずに無視したかも知れないが、雷に怯えた少女が誰かが来るのを今か今かと待ち構え、廊下の隅っこに蹲りつつ、そうしてやっとの思い助けを求めたという経緯であれば、ケスラーとしても放置することも出来ない。 とりあえず、完全に腰が抜けたを抱き上げて、自分の執務室へと向かい、そして来客用のソファに降ろした。 「なんか、前にもこんなことがあったような気がします。その時は、ミッターマイヤー元帥に雷が怖くなくなる方法を教えていただいたんですけど、全然うそつきでした。」 若干、文が繋がっていないのは、まだ混乱しているからだろうか。 雷を怖がる心理は、到底軍人には理解できないような話だが、それでもこれだけ視線を泳がせている少女を見れば、にとってはどれだけに脅威なのか、ケスラーには理解できた。 そこで彼は苦笑を浮かべながら、と対して年齢も変わらないであろう、恋人に教えられたおまじないを教えてみたのである。 気休め、というよりは、話題の転換の種に、というところだった。 「繰り返す回数が多いほど、効果があるとか。」 続けて教えれば、は白い手を胸元で組み、厳かにおまじないを繰り返し唱え始める。 だが、何度か繰り返したところで、思い出したようにケスラーを見上げてくてりと首を傾げた。 「ですけど、ケスラー提督。雷って、兇事なのでしょうか?」 「………………………。」 雷から意識が反れて怖くなくなるのならそれで良いだろうと、がおまじないを唱える姿を観察していたケスラーだったが、思いがけなく問い返されてしまい、つい返す言葉を見つけられず、笑って誤魔化してしまった。 |
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