彼が「子供が出来たから結婚する」と、そう言って、彼女が「おめでとう」と言うから、素直に祝う前に少しだけ安堵の気持ちを抱いた自分は、どこかおかしいのかもしれないと感じた。 それ以来、はどこかぼうっとしていることが多くなり、ラインハルトもどこと無く落ち着きが無い。 物理的に忙しいという事実を差し引いても、とラインハルトの関係は微妙な変化が見られていた。 それを、キルヒアイスは何をするでもなく傍観している。 それが、自分の行動であると認識するには、少し抵抗があった。 両者とも、キルヒアイスにとっては最優先の人物だ。 その二人がぎくしゃくしていれば、普段のキルヒアイスはまず真っ先に行動していただろう。 だが、今回ばかりは動けなかった。 ラインハルトの落ち着きが無いのは何故か。 がぼうっとしているのは何故か。 今の状況を考えれば、容易に想像がつく。 だけど、それを直視するには、キルヒアイスには歪に膨張した感情を抑えこまなくてはならない。 それをうまく制御する自信が、キルヒアイスにはなかったのだ。 ラインハルトは、キルヒアイスが話を振らなければ、絶対に自分からは弱い部分を見せようとはしないだろう。 そもそも、結婚に関して自身の今の状況を関連付けることすら、及びもつかないのかも知れない。 そう考えることは、自分の子供を身篭ったヒルダに対する裏切りになってしまうから。 例えヒルダ自身を含めて他の誰もが「そうではない」と言っても、ラインハルトは納得しないだろう。 対しては、もう少し気持ちが自由だった。 自分がどうして失調しているのかも、彼女はラインハルトよりは自分に対しての理解があった。 だけど、普段は他人の感情に敏感なであっても、自分のことで手一杯のこの状況では、流石にキルヒアイスのことまでは頭が回らない。 「――ジーク、寂しいな。」 ラインハルトが、ヒルダと結婚してしまうことが寂しい、と。 は小さな声で呟く。 まだそれほど大きく育っていないの想いは、早々に手折れてしまったのだ。 もしかすると、彼女はその気持ちが何なのか、明確には理解していないのかもしれないけれど。 は悪意無くキルヒアイスの心に楔を打ち込む。 膝を抱えて呟く姿は、小さくて儚い。 だけど、それが、普段は温厚で優しいキルヒアイスに決定打を与えることになってしまった。 無言でに歩み寄ったキルヒアイスは、やはり無言のままの腕を掴む。 勢いで傾いだ少女の華奢な体を抱きしめて、そして、その耳元で囁いた。 「。忘れさせてあげるから、忘れてくれると約束して。」 懇願に近いその言葉に、の紅い眼が大きく見開かれた。 |
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