確かに取り戻したのだ、一度は。 だが彼女はあっさりと、彼らの手の中から離れていってしまった。 彼女自身の意思で。 では、自分達は間違っていたのだろうか? いや、そうではない。 そうではないのだと、信じたかった。 だが、それなら何故、彼女はラインハルトの傍にいることを拒んだのだろうか。 どんなに優しくオブラードに包んだところで、それは否定できない事実なのだから。 だから、はそれを否定しようとはしなかった。 珍しく酒気をうかがわせるラインハルトの私室で、はアルコールに上気したラインハルトの頬に触れる。 「ラインハルト…」 「」 酔っているのかと、そう問いかける前に答えられた声は、酒の香りに反比例して意外なほどに冷静だった。 が伸ばした手を掴んで、ラインハルトは軋むほどに切ない言葉を投げかける。 「姉上は、自由を望んでなどいなかったのか?」 それは、には答えることが出来ない問いだ。 アンネローゼ以外の誰にも、その答えは分からないのだから。 フリードリヒ四世が逝去し、後宮からその身を自由のものとなったアンネローゼは、一時はラインハルトの元へ身を寄せたものの、間もなくしてその館を出ることを望んだのだ。 「俺は、取り戻したかっただけだ。」 「うん、分かってる。」 自嘲気味に呟かれた言葉に、はただ頷いた。 そして、彼の姉が昔そうしていたように、その額に唇を落とす。 僅かに顔を上げたラインハルトは、少しだけ自嘲のそれとは違う微笑を浮かべて、に両手を伸ばした。 明確な言葉ではないけれど、ラインハルトがそれを望んでいることは、分かっていたから。 だから。 ラインハルトが何を望んでいるのか、正確に察したは、素直にその腕に身を任せた。 |
(C) 2005-2009 Replica Fantasy 月城憂. Some Rights Reserved.