Replica * Fantasy







No.06  【 失くしたものが戻ってくると信じなければ、生きていけなかったのだろう 】




 確かに取り戻したのだ、一度は。
だが彼女はあっさりと、彼らの手の中から離れていってしまった。
彼女自身の意思で。
 では、自分達は間違っていたのだろうか?
いや、そうではない。
そうではないのだと、信じたかった。
だが、それなら何故、彼女はラインハルトの傍にいることを拒んだのだろうか。
どんなに優しくオブラードに包んだところで、それは否定できない事実なのだから。
 だから、はそれを否定しようとはしなかった。
珍しく酒気をうかがわせるラインハルトの私室で、はアルコールに上気したラインハルトの頬に触れる。


「ラインハルト…」



 酔っているのかと、そう問いかける前に答えられた声は、酒の香りに反比例して意外なほどに冷静だった。
が伸ばした手を掴んで、ラインハルトは軋むほどに切ない言葉を投げかける。


「姉上は、自由を望んでなどいなかったのか?」


 それは、には答えることが出来ない問いだ。
アンネローゼ以外の誰にも、その答えは分からないのだから。
 フリードリヒ四世が逝去し、後宮からその身を自由のものとなったアンネローゼは、一時はラインハルトの元へ身を寄せたものの、間もなくしてその館を出ることを望んだのだ。


「俺は、取り戻したかっただけだ。」
「うん、分かってる。」


 自嘲気味に呟かれた言葉に、はただ頷いた。
そして、彼の姉が昔そうしていたように、その額に唇を落とす。
僅かに顔を上げたラインハルトは、少しだけ自嘲のそれとは違う微笑を浮かべて、に両手を伸ばした。
 明確な言葉ではないけれど、ラインハルトがそれを望んでいることは、分かっていたから。
だから。
 ラインハルトが何を望んでいるのか、正確に察したは、素直にその腕に身を任せた。






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2008/06/09
求めてくれる人がいるなら、拒まない。
それが彼女の存在意義だから。



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