ロイエンタールに嗤われて、は酷く気分を害した様子でそのまま次の犠牲者の下へと押しかけた。 むろん、犠牲者というのは、の行動によって仕事時間を削られた者のことを指している。 ミッターマイヤーは、なにやら酷く憤慨した様子のを前に、突如押しかけてきた少女の言い分も、親友の言い分も理解できるだけに、ただただ苦笑を浮かべて誤魔化すことしか出来なかった。 「それで、それで…、――ロイエンタール提督なんてもう嫌いです!」 「。分かったから、少し落ち着こうか。」 普段なら、よく分からないことを言われたからといって、がこれほど感情的になることは無いだろう。 結局、意識でも無意識でも、それが図星だったからこそ彼女は取り乱しているのだ。 にとって、一番自覚したくない部分に、ビッテンフェルトとロイエンタールは踏み込んでしまった。 後で釘を刺しておく必要があるな、と。 ミッターマイヤーはひっそりと溜息を吐く。 「血の繋がりが無いと、家族にはなれないの?」 結局のところ、は不安なのだと、ミッターマイヤーは直感した。 こんなに溢れるくらい、二人を思っているのに、明確な絆が無いから。 自分達を繋ぐものが、眼に見えない気持ちだけだから、それが変化してしまうことを怖れている。 変化してしまうことで、なくなってしまうかもしれないと、執拗なまでに怯えているのだ。 「そんなことはない、。見えない絆だって大切だ。」 「――本当に?」 ミッターマイヤーは今にも泣きそうなの頭を撫でれば、はぐすりと鼻を啜る。 その表情が、とても美貌でならせる侯爵令嬢に見えなくて、ミッターマイヤーは思わず笑いながら答えた。 「本当に。ロイエンタールと俺なら、どちらが信用度が高いかな?」 「それはもう言うまでもなくミッターマイヤー提督ですけれど……。」 あまりにも即答されたので、今度は思わず声を上げて笑ってしまった。 はもう一度ぐすっと咽喉を鳴らすと、目元に溜まった涙を拭って、少しだけ笑った。 「そうですよね。ミッターマイヤー提督と、フラウ・ミッターマイヤーも、血は繋がっていなくても家族ですものね。」 「――そうだな。」 の思考回路はどこか抜けている。 確かにミッターマイヤーとエヴァンゼリンは家族だ。 しかし、その手続きの過程には恋愛感情というものが存在している。 しかしミッターマイヤーは、今まさにその感情を認められなくて苦しんでいたに、それは突っ込めなかった。 折角落ち着いたのだから、再び混乱させることも無い。 とりあえず苦笑を浮かべて曖昧に誤魔化したミッターマイヤーは、ロイエンタールとビッテンフェルトとファーレンハイトに、これ以上余計なことを言わせないための根回しの算段を考え始めた。 |
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