「好きなんだろう?陛下のことが。」 「好きじゃないですよ?」 さも当然のように口にされたビッテンフェルトの言葉に、は不思議そうに首を傾げて答えた。 むろん、この場合、『好き』という言葉が意味している感情は、恋愛感情に当たるものなのだろう。 ビッテンフェルトは殆ど確信を持って問いかけたのだが、は考える素振りを見せることも無く、即答で否定したのだ。 「おかしいな。じゃあ、キルヒアイスの方なのか?そうすると、またファーレンハイトの一人勝ちか。」 「また、賭けてたんですか?」 じとりと、がビッテンフェルトを睨めば、彼は悪びれる様子も無く豪快に笑って、頭を撫でる。 もそれほど怒っては居なかったが、どうして自分達が賭けの対象になるのか、それすらも疑問に思ってしまった。 「ラインハルトもジークも大好きだけど、家族ですもの。恋人になんて、考えたこと無いです。」 「考えたことも無い?」 「まったくもって微塵も無いです。」 ビッテンフェルトはじっとを見つめる。 も臆することなくビッテンフェルトを見つめ返した。 やがて先に肩をすくめたのはビッテンフェルトの方であった。 は、嘘などついていない。 ビッテンフェルトにも、自分にも。 むしろ、自分自身にでさえ、その真実に気付いていないのだ。 無意識に、意識に上らせないようにしている。 自覚する前に、殺してしまっているのだ。 彼女は、一人を選べない。 ラインハルトと、キルヒアイスのどちらかなんて。 どちらも愛しているから、どちらも愛していないと言う。 それは、関係が変わることで失うことを怖れた、幼い自己防衛本能なのかも知れない。 「――厄介だな。」 珍しく深刻そうに呟いたビッテンフェルトに、は訝しげに首を傾げた。 「どういうことですか?」と、言外に問い返してみたが、ビッテンフェルトは苦笑を浮かべて「なんでもない」と答え、またくしゃりとの頭を撫でた。 |
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