零れた涙が、その頬を伝いきる前に、ラインハルトはの視界をふさいだ。 ああ、間に合わなかった。 彼女は知らなくて良いことを知ってしまった。 それは、今更なことでもあったし、今更だからこそでもある。 は無知を嫌うけれど、ラインハルトはそれを罪悪だとは思わない。 世の中には知らなくても良いことが、たくさんあるのだから。 仮にそのすべてを知っていたとしても、彼女に出来ることはごく限られている。 だけど、に力が及ぶ範囲について、彼女は必要不可欠なのだ。 だから。 「。負わなくて良いものに、眼を向ける必要は無い。」 そう呟いて、ラインハルトは優しくの視界を奪う。 傷つくのなら何も見なくて良い。 自分も、キルヒアイスも、その先に続く未来も、今目の前に映っている現実も。 でなければ、自分はいつかを何も見えないところに閉じ込めてしまうから。 だけど、は無知を罪悪だという。 それは、旧帝国の貴族がそうであったから。 そのために流れた血が多すぎたから。 そして自分が、その流れを汲む血族であるから。 それは微々たる物であるけれど、彼女は自分が犯した罪で無くても、それを自分のそれと、いとも簡単に摩り替えてしまう。 だから、優しく視界を塞いだラインハルトの手に、自分の手を重ねて、彼に問いかける。 「――本当に?本当にそれでいいの?」 ああ。この小さな少女は。 そしてはまた、一生かかっても答えられない難題を問いかけてくる。 |
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