『恋人同士』という関係になってから、キルヒアイスは必要以上ににアクセサリーを送るようになった。特に高価な石がついているわけでもないそれの殆どは、純度の高いプラチナで。の髪と同じ色をした鎖だった。 「、これをあげよう。」 「なぁに、これ?」 「ピアスだよ。これをつけたら、きっとその髪に混ざって綺麗だと思って。」 そう言って差し出されたのは、五センチ程の華奢なチェーンが二本。それぞれの両端にはピアスホールに差し込むための細い針のようなものが着いていた。 きらきら光を反射するそれを受け取って、だけどは少し困惑したようにキルヒアイスを見上げる。 「でもジーク。私、ピアスの穴なんてあけてないわ。」 「知ってる。君さえ良ければ僕があけてあげるよ、。」 そう、キルヒアイスはの耳元で囁く。まるで、が拒むことなどありえないとでも言うかのように。その柔らかい耳朶に一度だけ舌を這わせて舐めあげれば、は驚いてキルヒアイスの腕にしがみ付いた。だから彼は、更に其処に歯を立てる。 「ジーク!!そんなんじゃ穴はあかないわ!!!」 瞬間、悲鳴のような声が上がって、キルヒアイスはひっそりと微笑んだ。 そんなやり取りから始まったプレゼントは、ネックレスにブレスレットなど、次々と重ねられていく。いずれもヘッドもチャームも無いチェーンのみのそれは、何重にも重なってを束縛していくはずだ。 キルヒアイスにとっては、繋ぎ止めるための安っぽい足掻きだったのかもしれない。だけど、がそれに気付くことは無いまま、毎回素直に喜びながらキルヒアイスの鎖を受け取る。今も、銀色の髪に混ざって時折光る鎖が、その耳元を光らせる様も見て取れた。 「似合うかしら?」 「綺麗だよ。」 そんなお決まりの言葉でも、は花が綻ぶように微笑んで喜ぶ。だけど、本当はそうではないのだ。は、何もしなくたって美しい。それは、外面だけの話ではなくて、内面まで。自分の手が届くか分からないそこまで、少女は余す事無く美しかった。 だから余計に、こんなもので繋ぎとめようとする自分が虚しかった。 「、もう一つあるんだ。」 「なぁに?」 それでもキルヒアイスは、それしか知らないから。小さく微笑んで手を差し出す。それに両手を出して答えれば、の手に平にはころりと小さなリングが転がった。今までと同じ、特別な装飾は一つもない、細い、プラチナのリング。 「ジーク…これ……?」 「あげるよ。」 今までと同じ調子で渡したのに。同じ様に言ったのに。は酷く困惑したようにそれを見つめる。文句無しに美しい、何処か彼女と共通した印象を与える小さなリング。 ピアスやネックレスやブレスレットのように。ただ単純に喜んでもらえればそれでよかったのに。はそれをキルヒアイスの手の中に戻してしまった。 「――指輪は、受け取れない?」 そこに込められた意味は、特別なものがあったはずだ。同じように振舞っていたけど、平静を装っていたけど。最後の鎖は届かなかったのだろうか。キルヒアイスの口元が、一瞬自嘲に撓る。 「ジーク、私…、私は自分でこの指輪をつけられないわ。」 は、キルヒアイスの手に戻した指輪を泣きそうな表情で見つめる。だけどその理由は、彼が予想していたそれではなかった。 「私はそれを、どの指につければいいの?ジークも同じものを持っているの?分からないの。間違ってないか、自信が無いの。だから、ジークがつけて?」 そう言って差し出した手は、両手。は選択肢をキルヒアイスに委ねる。自分がそこにつけてしまったら、もう決定打になってしまうから、だからキルヒアイスはに選ぶ権利を与えたというのに。彼女はあっさりとそれを放棄してしまった。 「――後悔しない?」 「しないわ。ジークの方こそ、後でイヤになってももう知らない。」 最後の言葉は、泣き笑いに近かった。でも、鎖に塗れなくても涙を浮かべるが、心のそこから愛おしいと思ったから。 キルヒアイスは迷わずそれを、左手の薬指に繋いだ。の未来を、丸ごと全部。 彼女を繋ぎとめようと必死だったその指輪は、あっさりと返されて、キルヒアイスの同じ場所を、言葉一つで捉えてしまった。 |
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