独占したい、と、思うこと。束縛されたい、と、思うこと。それらが噛み合っているようで上手く交差しないのは、多分そうしたところで意味が無いことを互いが知っているからだろう。 同じ空間に居て、同じ空気を吸い、同じように互いの存在を共有していても。二人が二つである限り、その総てを共有することが出来なかった。 キルヒアイスとは部屋の片隅で、互いを抱えあうようにして床に座り、壁に背を預けていた。部屋の中にはベッドもソファも全部が揃っていたけど、そんな現実味も無い居心地に体を預けるくらいなら、今は硬くて冷たい床のほうが良かった。そうすれば少なくとも、相手の体温や肌の感触を実感することは出来るから。 「ジーク。何だかさみしいね。こんなに近くに居るのに、何だか怖いの。」 「そうだね。こんなに近くに居るのに、何だかとても遠い気がするよ、。」 声は、聞こえる。顔は、見えない。体は、触れられる。でも心は、届かない。 は夢中になってキルヒアイスの手を探した。そうしなければ暗闇に鎖されてしまいそうに思えたから。もう、こんなに閉ざされてしまっていることには、気付いてない。 「、君を、抱きたい。」 「今、抱いているわ。」 「そうじゃなくて。」 「うん、分かってる。でも、そうしないのはジークの方だわ。」 暗闇の中で、キルヒアイスはに触れる。くすぐったさに身をよじるを捕まえて、羞恥に伏せようとする顔にキスをして。 でも、其処までだ。キルヒアイスは決して其処から先へ進もうとはしない。彼は自虐的なまでにその言葉で自分を抑えていて、そして同時にを焦燥へ駆り立てていた。 追い込むように。閉じ込めるように。もう出口も入口も無い場所へ。その立ち位置までもを奪おうとするように。 「、。愛しているよ。」 キルヒアイスは絶対にを責めない。まるで砂糖漬けの花菓子を作るように、甘い甘い言葉を注いでを溺れさせていく。 抱きたいけど、抱かない。まだ、抱けない。君を。。 無言で追い込まれていくから、は更にさみしくなる。怖くなる。こんなに近くに居るのに、何時まで経っても自分は彼のものにはなれないし、彼は自分のものにならない。涙が零れそうだった。 「ごめんなさい、ごめんなさい、ジーク。私も愛しているわ。」 キルヒアイスは求めているのに、自身もそうなることを望んでいるのに。どうしても越えられない隔たりが、を跳ね除けようとしている。それを壊す術が分からなくて、は必死だった。 「ジーク、ジーク。私、早く大人になるから、だから待っていて。」 精神的に如何ともし難い距離を与えられたは、せめて物理的な距離を縮めようと、必死になって暗闇の中でキルヒアイスを探す。触れ合っているのに、抱き合っているのに。それなのに遠い唇に自分のそれを何度も何度も折り重ねて。最後にはどちらが求めているのか分からなくなったその行為は、未だあまり慣れないの呼吸があがるまで続いた。 「そうだね。早く大人になってくれないと、僕が無理矢理大人にしてしまうよ?」 |
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