Replica * Fantasy
No.01 【 背 中 】
もぞもぞと。 は羽根布団とキルヒアイスの腕に埋もれたままで目を覚ます。 肌に直接触れるシルクの寝具は、何だかとてもすべらかで気持ちがいい。 昔は、否、昔も。 こうして一緒に眠ったりしているときには、こんなすべらかな生地よりも、洗い立てのタオルのようなパイル地の方が好きだったのだけど。 どうやら、長い月日をはさんで成長するにつれて、は自分の好みが変わってきたことを自覚して、少しだけ頬を赤らめた。 だって、好みが変わったのはきっと、肌に直接触れる面積が増えたからだ、と。 は思う。 無造作に身を包んだシーツごと、キルヒアイスはを抱きしめて眠っていた。 彼の格好も、と似たり寄ったりのもので、その殆どを手触りの良い寝具に埋もれさせて、眠っている。 が、キルヒアイスを起こさないように、慎重に彼の腕の中から抜け出して身体を起こせば、キルヒアイスはそのまま横向きからうつ伏せに寝返りをうった。 その拍子にの視界に広がった、自分のそれとは全く違う広い背中が、何だが不思議なくらい珍しいものに思えて、だから。 ぺたぺたぺた。 は両手でキルヒアイスの背中に触ってみる。 剥き出しになっていた背中の表面は少し冷たくて、だけどそれは直ぐに特有の温かさがその手に伝わってきて。 少し硬くて、でも柔らかくて。 何だかそれがとても愛しい。 きっと耳を押し付けたら、心臓の音が聞こえるんだろうな、と、は少しだけ微笑を浮かべた。 一応起こさないようにと気を使っていたつもりのだったが、それでも指の感覚に反応したのか、キルヒアイスがもぞりと身体を動かす。 その動きに合わせて、肩甲骨がその存在を主張した。 固い骨は、のそれとはまるで大きさが違う。 もちろん、だって自分の肩甲骨の正確な大きさを知っている訳ではないけれど。 皮膚の下で動く骨は、の口元に笑みを刻む。 そのまま少し窪んだ背骨のラインを辿って、つっと指を這わせれば。 「、それ以上は誘ってると見做すよ？」 俯せのまま、半分だけ枕に顔を埋めていたキルヒアイスが、面白そうにのどの奥で笑いながら口を開いた。 驚いたは反射的にキルヒアイスの背中に這わせていた手を引っ込めたが、とても寝起きとは思えない早さでキルヒアイスがその手を捕らえると、困惑したように少しだけ頬を染めた。 「いつから起きていたの？」 問い返したは、自分の声が少しだけ掠れていることに気付いて。 そしてその理由に心当たりに、更に頬を染めて俯いた。 それを見て、キルヒアイスは更にのどの奥で笑って、俯いたの顔を見上げるように、寝転がったままの腰に両腕を絡める。 ちょうどひざ枕をするような体勢にはうろたえたが、キルヒアイスはお構い無しに柔らかな大腿の感触を楽しんでいるようで。 「僕の背中は、そんなに触り甲斐があるかい？」 つまりキルヒアイスは、が触り始めた頃には、既に起きていたのだろう。 そして、の腰に抱き着く様に腕を伸ばしているキルヒアイスは、また意図的にその背をに向けている。 まるで「触りたいだけ触ればいい」とでも言っているかのようなその体勢に、は少しだけ躊躇ってから、その背に掌を触れて答えた。 「触り甲斐っていうか…。 ただ、ジークの背中がこんなに近くにあるのが、不思議な気がしたの。」 心なしか拗ねたような口調に、キルヒアイスは苦笑を浮かべて上体をゆるりと起こした。 確かに、こうして横になっているときくらいしか、自分はに背中を見せないのかもしれない、と。 キルヒアイスは思う。 キルヒアイスは、起きている時は極力の姿を視界に捕らえようとしているから、自然との視界に入るのは、彼の真正面からの姿になるわけで。 それを差し引いても、とキルヒアイスの両者の身長差を考えれば、彼女が彼の肩甲骨だの何だのを珍しがって触ろうとするのも無理は無いのかもしれない。 というよりも、がキルヒアイスの身体に触るということ自体が、珍しいのだ。 以前にが割れた腹筋を『三葉虫』と称して、キルヒアイスが自分の腹筋に触らせたときには、真っ赤になって困惑していたのだから。 多分、が赤くなる法則は、それを意識しているか意識していないかという、その一点なのだろう。キルヒアイスは少しだけ笑った。 「。 触りたければ、好きなだけ触ってもいいけどね。 その分、僕もに触っていいかな。」 「触るって、背中？」 愛しげに、は自分の腰に腕を絡めているキルヒアイスの柔らかな赤に触れる。 普段、長身の彼をこうして抱きしめるなんて、それこそにはあまり無い体験だ。 キルヒアイスは、抱きしめられえるよりも、抱きしめたいと思っている人間だから。 だからこうしていると、何だか愛しさに混ざって母性本能のようなものをは感じるのだけど、自分を撫でる小さな手や、顔を埋めている太腿の感触を楽しんでいたキルヒアイスは、間違っても無邪気なだけの子供ではなかったから。 「背中と、他にも、たくさん。」 「ひゃぁっ！」 無造作に身をくるんでいただけのシーツの中に手を差し込まれて、は反射的に嬌声を上げてしまった。 |
2008/09/24