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紅百合蒼薔薇狂想曲




 パパとママが死にました。年頃の愛娘二人を遺して。
 死因?
なんでも、二人して研修出張に出てて、それから帰って来る途中の高速道路で、飲酒運転して逆送してた車に追突されたって聞きました。
どんだけの確率でしょうね?滅多にあることじゃないと思いますが。
 でもさ、そんなんいきなり言われても困るっつーの。
たかが中学生には実感なんて湧かないっつーの。
そんなこんなで、訃報が飛び込んだ我が家でも、あたしは特に取り乱すことなく、至って日常的な生活を送っていた。
 両親の遺体が帰って来るまでは。


「パパ…?ママ…?」


 あぁ、何て悲劇的再会だろう。
こんなことって本当にあるのでせうか?
 一週間前までは、ちゃんと生きてた両親が、ただの肉の塊になって帰って来るなんて。


「やだ!やだぁぁぁっ!」


 なんて、悲劇ぶってみても仕方ない。
だってそこまでいっても、全く持って実感が湧かないんだもん、あたし。
 何?それじゃあ泣き叫んでるのは誰かって?
これはあたしの双子の姉妹で、月城。ちなみにあたしはっての。
何で双子で苗字が違うかって話なら、両親が流行りの成田離婚をしたとでも言っておこう。
 え?もう流行ってないって?
まぁ、当時は流行ってたってことで。
 ちなみに、パパとママの名誉のために若干説明を加えるなら、他の離婚家庭よりは複雑な理由がありまして。
でもまぁ、結婚3ヶ月でパパとママが離婚したのも事実だ。
 そんなワケで、ようやく実感らしきものが芽生えてきたのは、別に棺桶の中に詰め込まれた、そこそこ見られるように修正された両親の姿を見たからではなくて、それを見て半狂乱になりつつある我が姉妹を宥めなきゃいけなくなったからだ。


、落ち着いて。泣いても死人は帰って来ないっつーの。」
ちゃん…」


 涙でぐしゃぐしゃになったが、あたしに抱き着いてくる。
あぁ、コラ。せっかく買った新しい服が。じゃなくて。
 うんうん、分かってるよ。は甘えたちゃんだったからね。
あんな、淋しがり屋のウサギでさえストレスで死にそうなくらい、重くて暑苦しいパパとママの愛を素直に受け止めてたには、こんな急な訃報は辛かろう。
出掛ける度に何度もしつこく帰宅時間を聞きにメールするパパとママに、律義に返信していたには辛かろう。
あたしは若干開放感を拭えないけど。
 いやいや、両親のことはフツーに好きでしたけどね。生んでくれたこともがっつり感謝してますとも。
でもあんだけ愛を降り注がれると、「もういいよ」と言いたくなる時もあるわけでして。
 きっと無償の愛とかって、一定限度を過ぎると有害なものになるのだと思うのだよ、あたしは。
だってそのせいであたしは、若干13歳にして、告白してきた男の子に「愛なんてもういらない」っつー、何とも可愛くない理由で断る羽目になり、それじゃあ好きなタイプはと聞かれて、「アラブの石油王の第七夫人」という、超具体的かつ現実味の無い返答をするという始末だ。
別にイヤミではなく紛れも無い本心だったのだが、まぁ、普通は泣かれるよな。
 でも、あたしの前に六人も妻がいれば、七人目なんて居ても居なくても一緒だろうし。
八人目以降、後ろに何人妻が居てもあたしは気にしないし。
そんな訳で、過剰過ぎる愛をうまく受け止められなかったあたしに対して、素直にそれを受け止めるなんて、ある意味奇特な才能を持った我が姉妹を宥めながら、あたしはぼんやりと棺を見遣った。


「とりあえず。最優先で葬式をあげないと。この連日の猛暑じゃあ、パパとママが腐る。」
ちゃんの馬鹿ーっ!」
「えー?じゃあは、パパとママを腐らせたいの?腐臭を漂わせ蝿を集め蛆に付け狙われるパパとママを見ていたいの?」


 フツーに慰めようと思っただけなのに、何だかは目を見開いて固まっている。
あらら、大丈夫かね、この子は。あたし、そんなに驚くようなこと言ったか?
 だいたい、死体の枕元を猫が歩くと蘇るし、火車って妖怪に死体盗まれるかも知れないし、そんなサプライズするよりは、ささっと片しちゃわないと。


「なにより棺桶ってスゲエ場所取ってるじゃん。それが二人分よ?早く焼こうよ。骨になったら置いておいていいからさー」
「うわーん!ちゃんのおおばかやろーっ!」


 怒らりた。
何だよー。よく分からないやつめ。事実じゃんかー。
この一部屋丸々占拠した棺桶が見えないのか?
 つーか、は死体がいつまでも綺麗に残ってると思ってるのだろうか?
今時そんなのを信じてるなんて、赤ちゃんはコウノトリが運んで来てくれると信じてる子並に少ないと思うぞ?
 だいたい、死んだ後まで目を背けられるほど、うちのパパンとママンは悪いことしてないんだから、目も当てられない惨状になるまえに燃やすなり埋めるなり沈めるなりして証拠を隠滅しないと。
あたしが殺したわけじゃないが。
 そんなあたしのココロの内を読んだわけではないだろうけど、は泣きながら葬儀屋に電話を入れてるようだった。
どうせなら、死に化粧が上手い葬儀屋を選んでくれよ?
あたしはをみながら、ぼんやりと両親の棺に視線をうつす。
 とりあえず、死んじゃったものはしょうがない。
娘としては、冥福を祈るばかりだが、あたしたちには両親の死を歎く以上に重大な問題が残ってるのだ。
すなわち、国家予算レベルでの慰謝料請求。
も、大事だが、そうではなくて。今後の身の振り方ってやつ?
 慰謝料請求はを裁判所に送っとけば同情策は十分、慰謝料がっぽりは確実だが、たかが中坊の女の子二人で、これから先マジでどうしろっつーのよ?






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拍手掲載期間 2008/10/10 - 2009/11/29



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