Replica * Fantasy







行こう




例えば、一ファミリーのボスともなれば、敵対する勢力と、交渉の席に立たなければならないこともある。
それが、ボンゴレのボスともなれば、避けて通れる道ではないことも、頭では分かっているはずだった。
だから自分はこうして正装をして控えているわけだし。
だからも先代の娘として、人形のように綺麗に着飾って一緒に控えているわけだし。


「ボスー、これ飲んでみてもいい?」


なんて、は一人緊張感も欠けた様子で、用意されたノンアルコールのシャンパンの瓶をもちながら。
ねぇ、。俺と以外のメンバーが、例えば山本とか獄寺君とかがね。
俺と同じような黒のスーツに加えて、黒のサングラスをかけて相手に眼を見せないということは、今回のそれは既に交渉が纏まらないだろうなぁってことを示しているんだよ。
つまりは、交渉の席でどんぱち始まる可能性が非常に高いわけだよ。
そこらへん、分かってる?まぁ、分かってないのだろうけど。
あぁ、憂鬱…と。
思っていれば、俺の変わりに獄寺君が少しぴりぴりした様子で、の手の中からノンアルコールのシャンパンを取り上げた。


、飲みたきゃ飲んでもいいが、毒入ってても知らねーぞ。」
「ーー何でわざわざ飲めないモン置いとくのよ。」
「俺に逆切れすんな!」


 言葉で言ってる割に、に飲ませないように取り上げて、しかもやりすぎじゃないの?とか思わないでもないけれど、それを後方に放り投げて盛大にぶちまけた姿に、思わず苦笑がもれる。


、今日はとりあえずおとなしくしてて。何もしなくていいから。危ないんだよ、本当に。」
「――過去に、ミルフィオーレの例とかがあるから?」


 俺の言葉にさらっと返してきた。その言葉に、獄寺君や山本なんかは眉をひそめたけれど、俺は思わず苦笑いしか出てこなかった。


「よく知ってるね?誰に聞いたの?」
「ヴァリアーのみんな。交渉の席でボンゴレのトップを殺そうとしたのは、長い歴史の中でもミルフィオーレだけだって教えてくれたの。スゲー剣幕で。ちょー怖かった。私が殺そうとしたわけでもないのに、ザン様に掻っ消されるかと思った。」


 まあ、一時はボンゴレ・ファミリーが壊滅寸前にまで追い込まれましたから。その時は。
しかもそれから三年ちょっとしか経ってないしね。
 普通なら、一つの交渉の席を警戒して守護者が全員借り出されるなんてことは殆ど無い。
今ここには、獄寺君と山本しか居ないけれど、外では雲雀さんと骸がそれぞれ自由気ままに待機しているし、ランボと京子ちゃんのお兄さんの了平さんは、本部で襲撃に備えた待機をしている。
そこまで警戒する必要は無いのかもしれないけれど、三年前の前例と似通った状況にあるから、余計に。
 もちろん、敵対勢力の規模はミルフィオーレの比ではないけれど。


「ねーぇ、ボス。難しく考えすぎてない?こんなのはね、なるようにしかならないんだよ。」


 の口調は、そんなどこと無くぴりぴりした雰囲気の中に、違和感無く溶け込んでいく。
押し黙っていた山本の表情が、少し緩んだ。


「わざわざ私まで同席で、なんてご指名なんだもん。無茶苦茶殺る気なのは、それはもうよく分かるんだけど。」


 そして今度は、また地雷でも放り投げるような適当さで、獄寺君の導火線のそばで火をちらつかせる。
その、一見一貫がなさそうな言葉に、少しだけ呆れた。


「ボスは私が守ってあげるから、大丈夫だって。」
「――。」


 一回り以上も年下の女の子に、諭されるなんてねぇ…。
視線だけ送れば、山本は小さく肩をすくめているし、獄寺君は非常にあいまいな表情を浮かべている。
 そうだ、俺たちは、忘れていたんだ。自分たちが「ボンゴレ」であるということを。
それは、戦う為の力ではなく、まず第一に守るための力であろうと決めたことを。


「そーだな、の言うとおりだ。じゃ、行くか!」
「はぎゃっ!!行くのはいいけど、何で私抱っこされてるの武さん!!」
「何でって、がツナを守るんなら、俺はを守らなきゃいけないからな。」
「そうそう、。だからは山本に張り付いててね。」
「大体、お前が十代目を守るなんておこがましーんだよ。十代目は俺がお守りするから、お前はおとなしくしてろ。」
「何コレ?!孤立無援?!交渉決裂以前にちゃんは四面楚歌デスカ?!」


 どうやらいつもの調子が戻ってきたらしい俺たち。
だけど、はそんな意識は無いんだろうな。
だから、俺たちには丁度いいのだろうけど。
 片手でを抱きながら、山本がそのスカートの形を整えてやる。
獄寺君は少し傾いたサングラスを戻して、煙草に一本火をつけた。
 そして俺は、ただスーツの襟元を正して、気持ちを切り替える。


「行こう、ボス。」


 その空気で次の行動を読み取ったが、自分も気持ちと表情を切り替えて、山本の腕の中から手を伸ばす。
本当なら、手を繋ぎたいのだろうけど、今の状況ではそれは出来ないから、代わりにその手にハイタッチをして。


「いざ、出陣。」


 軽く響いた音に反して、あえて重々しく言ってみれば、は酷く楽しそうに笑った。






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拍手掲載期間 2008/10/10 - 2009/11/29



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