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超能力五兄弟妹 02




「さしあたってお茶にしたいな。二時間も陰険漫才をやっていると、さすがに気疲れする。」
「コーヒーでも淹れ直しましょう。」


陰険漫才を終えて、迎え入れたときの1.5倍ほどの好意的な笑顔でもって叔父を見送った長兄と次兄は、ようやく解放されたとばかりに応接室からリビングに移動した。続がキッチンに入ると、キッチンからは芳しい匂いと共に、ぐつぐつという音が耳を擽る。ほぼ同時に、始はソファの中で一つの毛布に包まってヒュノプスの愛撫に身を委ねている末っ子たちを見つけて苦笑を浮かべた。現在十三歳になる双子の末っ子たちは、こうして並んでいるところを見ると本当に瓜二つだ。
顔の作りも身長も体重も、去年まではまったくもって同じように成長していたが、今年に入ってからはそれぞれ第二次性徴期に入ったのか、余の方が身長も体重もを上回るようになってきたようだ。しかしそれでも、二人で一つの毛布に埋もれて窮屈そうな印象を受けないと言うことは、やはりまだまだ子どもと言うことか、はたまた始が規格外の自分たちの体格に合わせて毛布を作っていることを忘れているのか。


「どうやら、ちゃんは終君に夕飯を用意している途中で寝てしまったみたいですね。」


続がコーヒーと共にホワイトシチュー、ロールパンを用意して始のもとに戻ると、同時に温かいシャワーを浴びて服も着替えた三男坊が滑るような足取りで二階から駆け下りてきた。


「あれ?余とは?」
「そこでぐっすりだ。」
「おや終君。上に連れて行ってあげなかったんですか?」
「だってがこっちっていうからさー!」


俺のせいじゃないさ、と言外に含ませておいて、終は続が持ってきたシチューに目を輝かせた。早々にスプーンを握ったが、終の直ぐ上の兄はただでやる気はないようで、なかなか終のほうへ皿を回してくれない。


「……で、何があったんだ?」


 目の前に食事をちらつかされつつ、長兄にそう問いかけられれば、終としては語らないわけにはいかなかった。結局のところ終は食欲という本能に逆らえなかったのである。
時折二人してソファで寄り添っている弟と妹に視線を投げかけながら、掻い摘んで関越自動車道での出来事を語ると、竜堂家の家長は溜息と共に応じた。


「……そうか、まぁ、たいしたことが無くてよかった。」
「だろ?」
「なんていうと思ったら大間違いだ。余にもしものことがあったら、お前自身がシチューの具にされていたところだぞ。」


わざとらしくじろりと睨めば、終は不服そうに口答えをしたものの、やはり黙り込んでしまった。どっちにしろ、自分の兄弟たちは下の弟妹を溺愛する傾向があるのだ。それを重々自覚していたからこそ、終も余計なことを言わなかったのである。
誰とも無く、起きている三人の視線が眠っている二人の方に向く。


「ちぇ。二人とも幸せそうに寝ちゃってさ。俺がどれだけクロウしたと思ってるのかねー?」
「今日は一日離れていたからな。消耗したのかもしれん。」
「余君とちゃんは、二人で一つですからね…」


スプーンを加えたまま終が呟けば、始と続もしみじみと応じる。
奇妙なことであったが、末弟の余と長女のは離れ離れになるとどうも上手く作動しないところがある。「僕たち、双子だからね」と、余などは呑気に言うが、実際はそれだけでは到底説明が付かない。世の中に双子が何組居るかは知らないが、とにかくと余が特殊であることは間違いないだろう。
ちなみにどの程度特殊かというと、小学校の頃の修学旅行において、余が熱を出しが一人で参加したとき、は修学旅行先で原因不明の昏睡に陥り、そのまま祖父の司が迎えに行ったというほどだ。まぁ、昏睡といえば大げさだが、は夜に眠ったまま朝になって揺すっても叩いても怒鳴っても目を覚まさず、危うく運ばれかけたところを、先に連絡を入れた保護者に連れ戻されたのだ。
距離的な問題か、時間的な問題か、それとも心理的な問題かは分からないが、一時的に離れてしまったからといって昏睡状態に陥る双子はそうそう居ないだろう。
似たようなことは大小様々に、何度も兄たちの肝を冷やしていた。
そんなワケで、自分たちには数多くの謎があるが、その中でも末の双子の関係は、上の三人の兄弟にとっても不可思議極まりないものであった。それでも、13年も付き合っていれば、慣れてしまうのもで。
とりあえず二人が揃っている姿を、上の兄たちは自分たちの平穏のバロメーターにしているのは確かであった。
テーブルを立った続が、ソファで深い眠りに落ちている双子に近寄り、の髪を顔からのけてやる。余に身長を抜かれたときから伸ばし始めたの髪は、今はようやく肩を通り過ぎたあたりまでに達している。


「にしても、今回は露骨でしたね。僕も昼間にちゃんと出かけていましたが、不穏な視線を感じましたよ。」
「祖父さんが、死ぬ前に言い残した"そのとき"とやらが、そろそろ到来したのかも知れないな。」


苦笑と煩わしさの二つを同時に表情に浮かべながら、始が呟く。続と終は互いに意味を成さない会話を続けていた。






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拍手掲載期間 2008/01/20 - 2008/10/09



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