「うえー、ボスー」 こんこんと、ガラスを叩く音と共に、あんまり悲痛な声が聞こえたもんだから、思わず振り返ってみた。庭に続くガラス扉の向こう。そこには、もうこれでもかってくらいガッツリ濡れ鼠のの姿。 ちょっとちょっとちょっと!何してるのさこんな真冬に!! 「?何かとっても激しく予想がつくからあんまり聞きたくないような気もするけど、とりあえずどうしたの?!」 「ワオ!ボスってば何か辛辣なお言葉!とりあえず中に入れてくれるか、タオル下さいっていうか、寒いです!死にそうなくらい!!」 大慌てで扉を開けて、を部屋の中に入れる。年齢の割りには小さい身体は、それはもう冷え切っている。あぁ、まったくこの娘は。とりあえずそこら辺のソファに引っ掛けてあったブランケットで迎える。 暖を求めて俺の腕の中に飛び込んできたは、そのままのテンションで抱きついてきた。 、俺濡れたくないんだけど。言ったところで聞きゃしないだろうけど。 「あのね、ボス!世界選手権ごっこしてたの!」 「そうだね、昨日大喜びでエキシビジョン見てたもんね。」 「アクセルジャンプまでは行かなくても、ストレートラインステップシークエンスとかなら出来そうな気がしたの!!」 「はいはい。うちの庭の噴水はそんなに距離長くないけどね。」 「そうなの!だからちょっと発想の転換をしてね。スパイラルシークエンスにチャレンジしてみたのよ!!」 「それは発想の転換とは言わないような気もするけどね。それで?上手くいった?」 「ううん。全然出来なくて飽きた。」 きゃーっと笑う。うわぁ。この子供の思考回路ってまったくもって意味が分からない。は何考えてるんだか。しかも結局のところ何も出来ないまま濡れ鼠になってきたの? 何だか一瞬でも心配した自分が馬鹿らしくなって、そのままぐっちゃぐっちゃの頭を拭いてやった。 「きゃー!ボス止めてー!頭が乱れる!!」 「もう既に乱れきってるでしょ?はい、さっさと風呂に言っておいで。」 「分かった!でも聞いて!」 ブランケットの中から顔を出して、は更にハイテンション。まったく、若い子に付き合うのは大変だなぁ…。 「どうしたの?」 「トリプル×3のスリーコンビネーションジャンプが出来た!!」 おかげで凍りきって無いところ、踏み抜いちゃったけど、と。やたらとテンションも高くなってるからの爆弾発言。 えっと。それは実は凄いことなんじゃないの?、君そんなコトまで出来たの。と。思ったのだけれど、あんまり本人がきゃいきゃい言っているので、素直に褒めるのが何となく癪に障った。 だからぱこんと軽く濡れた頭をはたいて、一言。 「うん。良かったね、。だからとりあえず、真面目に練習してるスケーターの皆さんに謝れ?」 「えー!何でー?!」と抗議する声は聞こえなかったことにする。 何でかって?俺を心配させた罰だよ。 |
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