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天使と羽根の素敵な関係




 ラインハルトが『皇帝』であるなら、キルヒアイスは『騎士』でが『天使』だと言ったのは、一体誰が最初であったか。に対し、『姫君』と言う者もあったが、だが、殆どのものが『天使』と言われて納得してしまうだけの容姿を、は確かに持ち合わせていた。
 何処と無くほややんとしたの纏う空気は、確かに、『夢見るお姫様』というよりは『夢の中の天使』といった方が、確かにしっくりくる。何しろ彼女の思考回路は極めて現実離れしている面が多々あり、普段でさえ足下が地面にちゃんとついているのか怪しいものだ。その背中に羽根が生えていたとしても、誰も驚かないだろう。
 だが、それを言うと、は軽やかに笑って否定した。


「天使といわれるのは嬉しいですけれど、でも私はきっと、羽根があっても飛べないと思います。」


 羽根があったら確かに素敵だろう、と。は夢見る瞳で言う。
羽根が無くても、その足は3センチばかり浮いていそうな印象だ。だけど同じ口調で、同じ夢見る瞳で、は更に続けたのだ。でも、飛べないのであれば、実用的ではありませんね、と。
 確かに天使のように見えても、はどんなに足が地から離れていても、彼女はきちんと地上のことを考えて、地上を住処としているのだ。


「どうして飛べないと思うんだ?」


 疑問に思ってラインハルトが尋ねれば、は真面目腐って答える。
年齢に見合った分だけ成長した、可愛らしい胸のふくらみを両手で押さえて。


「だって私、胸がBカップなんだもの。」


 ぶはっ、と。その場にいた殆どの士官が用意されていた紅茶を噴出す。
何を言い出すのだ、は、と。噴出した直後には、まるで共通認識のであるかのように彼等は内心で突っ込みを入れたが、無論それを口にするなどという猛者はいなかった。
もちろん、例外も居るわけで、噴出された紅茶に眉をしかめつつも、の発言と動作にただ一人平然としていたロイエンタールは、「そんなもの、見れば分かる」とでも言わんばかりの表情で、更に問いかける。


「Bカップと飛べないことに、なんの関係があるというのだ?」
「そんなコトを大真面目に聞くな!!」


 ミッターマイヤーが、噴出さないまでも唖然と固まってしまったキルヒアイスと、ひと際激しく噎せ返っているラインハルトの心中を慮って、盛大にロイエンタールの足を踏みつけた。だが、全てテーブルの下で行われた一瞬の攻防だったので、は奇妙な音と奇妙に歪んだロイエンタールの声に首を傾げつつも、周囲の気まずい雰囲気を物ともせずに、その質問に答えたのである。


「平均的な人型の成人の身体を、天使の羽根形状のもので飛ばせようとすると、Gカップくらいの胸筋が必要なんだそうです。」


 今度はどんな突拍子も無い答えが返ってくるかと身構えた者も居たようだったが、が口にした答えは、予想に反して理論的なものだった。
そのおかげで、僅かに調子を取り戻したものも居たが、続くの言葉は更に先ほどよりもその面々を噎せ返らせたのである。


「だから、ビッテンフェルト提督やケンプ提督くらいの胸筋があれば、飛べるかも知れませんね。」


 Gカップくらいありそうですもの、と。は殺人的に愛らしい微笑を持って続ける。
つまり、元帥府の中でもひと際体格の良いこの二人は、によると、栄えあるGカップ認定を与えられてしまったらしい。
 笑顔で言うに対し、非常に嫌な視線がビッテンフェルトとケンプの両者に集中した。話を振られた二人は、それぞれに紅茶でむせ返って生死の狭間を彷徨っているようにも見えるが、決して気のせいではないだろう。
ローエングラム軍の将官に生死を彷徨わせるなど、同盟軍ではヤン・ウェンリーが知略を駆使して艦隊を率いてようやく行ったことだ。それなのに、は、いとも簡単に行ってしまう。末恐ろしい娘だった。流石は『天使』と言わさしめるほどの事はある。と、言うべきところなのだろうか。
 むろん、中身のその特異性はこの際無視するとしても、のような可憐な少女に天使の羽根というのならまだ微笑ましいで済むが、ビッテンフェルトやケンプに天使の羽根など、考えるだに怖ろしい。
 むせ返りつつも、二人に視線を送ってしまった将官の殆どは、「何て嫌なものを想像してしまったんだ」とばかりに直ぐに視線を逸らした。
 だが、それを想像してもなんの衝撃も受けていないらしいは、やはり平然と呟きながら考え込む。その独り言のような言葉に、その場にいた将官たちは最早突っ込むことを放棄したようにも見えた。


「私は全然足りないから、無理だけど、あ、でも、そもそも、女の人の胸は脂肪の塊だから、Gカップでも飛べないのかな?でも、それじゃあ天使に女の人はいないのかしら?それとも、天使の胸は男女を問わず筋肉で出来ている、とか?」


 大真面目に考え込むは、『天使』という生物が、そもそも空想上の生き物であることを忘れているらしい。仮に存在したとしても、そんなGカップばりの胸筋をもった天使など、人間からすれば願い下げである。
 そしてとりあえず現実の人間たちには、空想上の生き物の胸の構成物質よりも、目の前の現実の方がよほど切実だったのである。


「とりあえず、人前で胸を掴むのは止めなさい。」
「あ」


 キルヒアイスに言われて初めて、は思い出したかのように自分の胸から両手を離した。






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拍手掲載期間 2008/01/20 - 2008/10/09



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