Replica * Fantasy







閑 話 編 : 頂 き 物




A right way out out of love




泡の中から見え隠れする、自分がつけた濃い赤の痕に、まずいとキスリングは思った。
平気でバスルームに入っていった上官であるキルヒアイスは、しか見えていなかったであろうから特に問題はないのだが。
もし明日、職場で彼女と鉢合わせしたら間違いなく顔を真っ赤に染めて俯かれるのだろう。
帝国一純情な少女がどう思ったか、何を吹きこんだのかとかが妙に気になった。

「お前さ、もう少し恥じらいとかないわけ」
「女性同士でそんなものないよ。軍属だから右も左も男性だし。もう誰に見られてもぜんっぜん平気になっちゃって」

むしろ男性方が私を女性として見てくれなくなっちゃってねえ。
暑そうにぱたぱたと顔を仰いでいるところを見ると、結構な長湯をしているらしい。

「ギュンター。服。濡れちゃうよ」
「…………本気かよ」
「大マジです。あの分だと、直ぐ終わるわけないでしょう」

二人の脳裏には同時に、「以外はどーでもいい」と言いそうなキルヒアイスがうっかりと浮かんでしまった。

嬢もお気の毒になあ」

服を脱ぎながら、思わずキスリングがぼそっと呟いて、が噴き出す。
結構自分達は似た者同士かもしれない、と。

「うわ、お前熱い…」

バスタブからを引き出すと、予想以上に火照った体がキスリングの上を滑った。
どれだけ入ってたんだか、とぬるめに調節したシャワーを浴びさせてやる。
身体から泡が剥がれて、胸元にあたり散らしたような自分の欲をまざまざと見せつけられて、もう一つため息をついた。

「そういえば聞いたことがなかったので一つ質問」

胸元に寄せられた視線に、が急に真面目な顔つきになった。
しかし次の瞬間に、持っていたシャワーヘッドをの頭に落としてやりたい衝動に駆られた。

「ギュンターはやっぱり胸が大きい女性が好み?私以外でも」

参考までに聞かせてほしいので、直感でお願いします。
と、彼女自身の、大きい部類に入る胸を無理やり片手に押し付けられる。

「直感も何もあるか。…別に、大きかろうと小さかろうと構わない」
「えー」
「えー、じゃない。全体の抱き心地がよけりゃいい。以上」
「適当だなあ」
「言ったらキリがないだろう、こういう事は。それにお前も聞いて欲しいのか?」

の頭をシャワーヘッドで小突くよりも、もっと効果的な方法で黙らせることが出来る。
多分そんな事を知っているのは自分だけだと思う。その事に気を良くすると、キスリングは元の位置にシャワーヘッドをおさめた。
幸い自宅と違って防音仕様なのだから、どう答えられてもいいわけだ。

「何が?」
は抱かれる時、ドコがどうなってるのが一番好み?」

言ってみな、と言われてもさすがに人様の家で卑猥な単語を並べるのは気が引けてしまう。
普段ならぺろっと口に出せるのもそれはそれでちょっと問題なのかもしれないけど。
それを解っていてこういった質問をするのだろうとも悟った。
ため息交じりの唇へ、強引なキスをされる。
慣れ切っているにしても、先ほどのとキルヒアイスのキスシーンを目撃しただけあって、妙に落ち着かなくなった。

「場所を提供されるって、なんか落ち着かないよねえ…」
「答えになってない。今頃どうなってるかとか考えさせられるよりマシなんじゃないのか」

それもそうだ、と二人は半ば無理やりに納得しあった。
自分達の為にもここは、キルヒアイスの言う通りにしておいて別段問題はないのだから。
何度もそう言い聞かせながら、冷たい床の上で身体を絡めあった。
遠くなっていく意識の向こう側で、洗濯終了の音が聞こえてくる。
帰る時どんな顔していけばいいんだろう、とそこまで考えたところでの意識はぷつりと途切れた。

ぺちぺちと頬を叩かれて、その意識もすぐに戻さざるを得なくなってしまった。
本当ならこのまま眠って、ベッドに運ばれてしまいたい。
他人の家だというのに全くもって変わらない妻に、呆れ半分感心する。

「待て、こら、起きろ
「…あとはお任せしますキスリング隊長…」
「寝るな。寝たら死ぬぞ」
「大丈夫ー。ギュンターがいれば私は助かる…」
「いや俺が死ぬだろ!…そういえば何か音がしてたが」

あ。とはその一言で勢いよく起き上がった。

「洗濯が終わったんだわ。でも乾燥機は別よね…どうしようギュンター。私、本格的に命かかってる気がする」

相手は決して敵ではないはずなのだが、二人は同時にごくりと唾を呑んだ。
バスルーム内に静寂が広がる。

「ホントに防音なのね。何も聞こえない」
「向こうから迎えが来るまで、下手には動けないな」

陸戦隊で鍛えられた二人の勘は同じところを指す。
ごゆっくり、という事はつまり「が僕に一週間分のつけを払い終わるまで、動かないで下さいね」ということなのだ。
仕方がない、半ば自棄になったキスリングはを抱えてバスタブへと身を沈めた。
瑞々しいラズベリーの香りが肌にしみこんで、明日は間違いなく、アレクに纏わりつかれてしまうんだろうなと想像しながら。
対するは長湯と、予期せぬ運動の為に顔どころか体中が赤く染まり、だるそうにキスリングの胸板にもたれている。
これ以上湯に浸かっていると、本格的に明日は出仕できなくなるとか仕事のことばかりを考えていると、家主がようやく声をかけてきた。

「キスリング准将。替えの服を置いておきますので、お使い下さい」

先程までの冷気を含んだ声は何処へやら、妙なほど爽やかな声に二人は一気に緊張した。
むしろ、全身が総毛立った。

「あ…有難う、御座います…」

何とか、ようやくキスリングが必死の思いで礼を述べた。
そもそも風呂場に無理やり入れられたのだから、礼を言われる筋合いはあれども言う必要はないのだが。
頭を抱えるキスリングの頭を撫でながら、がガラス越しにキルヒアイスに質問した。

「閣下。は…」
「ああ、なら失礼ながら、眠ってしまいました」

そうでしょうねえ。とまたも二人は同時に泡風呂の中で合掌しつつ心の中で突っ込んだ。

が、私の服を洗濯して下さったのですけれども…」

おずおずと声を出すに、キルヒアイスはそれなら平気でしょうと返す。

「フラウには私の服は些か大き過ぎるでしょう。ご主人の服を着て帰ればよろしいかと。近いうちににお返しさせますから」

では失礼、とキルヒアイスは早々に脱衣所から引き揚げた。
足音の後ろに音符が並んでいそうな歩調が去ったその瞬間に、バスタブの中には完全に沈みこんだし、キスリングはいよいよ胃の痛みを自覚することになった。







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2009/02/25
由布子さんから返礼を頂いてしまったぁ! 由布子さん、ありがとうございました!!



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