「白黒はっきりしてやれ。」 なんて、そんなこと急に言われても、と。 呆れたような、意地悪い笑みを浮かべる金銀妖瞳を前に、は少し困惑したように黙った。 華々しい経験を重ねたロイエンタールの目には、それ程もどかしく映るのか、彼はよくこのての話題を出す。 それが、からかい半分のものであれば、も頬を膨らせるだけで済むのだが、そうする前にもう一つ付け加えられてしまっては、流すことも出来ない。 「閣下はともかく、キルヒアイスには生殺しだぞ。」 「――ジークが、ですか?」 は更に困惑したように、少しだけ首を傾げるが、「何故?」と、声に出して聞き返して来なくなっただけ、成長したのかもしれない。 ある一方行については人生の教師であるロイエンタールは思った。 「――それもまた、長所であると同時に短所だかな。」 「ジークの、ですか?」 「そう思いたければ、思っていろ。」 思わず聞き返したに、ロイエンタールは滲んだ苦笑を隠そうともしなかった。 ロイエンタールが自身の経験と視界に入る情報に基づいた判断によれば、恐らくラインハルトは自覚以前の問題なのだろう。 善くも悪くもその方面に疎い若き元帥は、戦況に置いては比類無き先見と洞察の眼を持っていても、一番身近な現実と少しの未来については、目の前に突き付けられなければ気付かないらしい。 水面下に秘められた無意識のその感情に。 だが、ラインハルトよりその感情に関して強烈な自覚を持つキルヒアイスは、そうはいかないのだ。 彼は、理性と感情 少なくとも、ロイエンタールにはそう見えた。 そこに端を発する行動が、些か鬱屈して屈折したものになっていることは否定しないが。 そして一番の問題は、がそれについて、直視することを怖れているということ。 『変化』に怯えるに、ロイエンタールは常にそれを意識させる。 「考えろ、。お前にその気が無いなら、いい加減に切れ。」 その物言いが、にとって酷く苦い響きを含むことを、ロイエンタールは知っていた。 知っていて彼は、逃げ道を与えない。 だから、彼女は逃げなかった。 考えて考えて、考える。 時折酷く泣きそうに表情を歪めたり、思い出したように困惑した笑みを滲ませるのを、ロイエンタールは無言のまま眺めていた。 そして。 「――よく、分かりません…」 「――結局いつもと同じか?」 導き出された答えは、何時もと同じもので。 だけど、ロイエンタールは失望したりはしなかった。 彼もまた、何時もと同じように溜息をついて呆れただけで。 は自嘲めいた笑みを一つ浮かべて、そしてひっそりと眼を伏せて小さく呟いた。 「――私はきっと、ラインハルトに恋をしていて、ジークを愛してるんだと思います。」 「また、ややこしいことを。」 「本当ですね。」 ミッターマイヤー辺りであれば、の言葉に首を傾げたであろう。 普通は恋を経て愛に至るはずであるから。 だが、ロイエンタールは別におかしいというそぶりを見せず、また少し、形の良い眉を寄せてから溜息を吐く。 匙でも投げそうなその様子が、逆にの笑みを誘った。 だから彼女は、もう一度静かに眼を伏せて続ける。 きっと、ラインハルトに恋をしているのだろう、と。 だからこんなに焦がれていて、傍に居たいのだろう、と。 そして同時に、ジークを愛しているのだろう。 だからこんなに苦しくて、触れ合っていたいのだ、と。 だから、分からないのだ、と。 どちらを切り捨てることも出来ないし、どちらを選ぶことも出来ない。 狡いことだと思っていても。 そして酷く自己嫌悪に浸ったように、が真面目腐ってロイエンタールに問い掛けるから、彼は反射的に鼻で笑って答えた。 「――私、悪女でしょうか?」 「馬鹿言え。悪女ならもう少し上手く立ち回る。」 |
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